第58話 せかんどしょっぷ

「佐藤君、今日は四宝堂さんは?」

「一度、登校したんですが、屋台を引いて出ていきました」

「四宝堂 冬華…欠席と…どこにいったのかしらね~」

「さぁ、屋台を引いて出ていったってところが、気にはなりますね」

「そうね~、あの娘、ほら、ねっ? あぁいう感じじゃない?」

「そうですね、あぁいう感じですからね」

「ねっ、想像を遥かに超えてくるのよ」

「そういえば…2号店とか言ってましたけど」

「2号店……屋台の?」

「そういうことなんでしょうか?」


 そういうことだったのだと、小太郎が気づいたのは放課後、帰宅途中のことであった。

 スーパーの駐車場で、タコ焼きを焼いている冬華を見たときである。

(場所を変えたのか)

 時折、フラフラとゾンビが来て、タコ焼きを買っていく、というか持って行く。

(この世界で商売とか?)

 自らの能力『バイバイマネー』の無能さを痛感している小太郎、この世界で通貨の価値など無いに等しいのだ。

 せいぜい自動販売機を機能させるための道具に過ぎない。

 その世界で商売に勤しむ冬華。

(趣味みたいなもんなのだろう…)


「1個売ってくれ」

「はい、900円です」

(意外と高いな…)

「1000円で…」

「おつり100円、まいどです‼」


 小太郎が屋台に近づく。

「売れてるんだね」

「案外、売れるです‼」

「1個900円か~、高めの設定なのにね」

「新鮮なタコを使っているからです」

「さっきの人も、よく買ったよな………えっ?」

「どうしたですか?」

「さっきの人‼」

 小太郎は振り返って走り出した。

(人間じゃないか‼)

 見間違いじゃないスーツのサラリーマンだった。

 何より話していたじゃないか‼


 見失ってしまった…。

 久しく学校以外で人間を見ていなかった、いないことが当たり前になっていた。

 春奈の家にいた爺やはゾンビよりゾンビのような外見だったし…あんまり人に会った感じがしなかった。

「人だった…まだ、この街に生きている人もいるんだ」

 普通に生活している人がいる。


 屋台に戻って冬華に尋ねた。

「今の人、覚えてる?」

「覚えてる、男の人」

「そう‼ 人間じゃん‼」

「当たり前です…ゾンビは話せません」

「なんで? 驚かないの?」

「人が珍しいですか?」

「珍しいさ‼ 僕らが思っているより、人は生きているんじゃないか?」

「人は生きてるから人です、死んでも生きてるからゾンビです」

「そうなんだけどね…でも凄いよ、まだ人がいるんだよ」


 興奮して寝られなかった…

(この世界に、まだまだ人がいるんだ‼)

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