第57話 しーあいらんど

「釣れましたか~?」

 冬華が釣り人ゾンビのバケツを確認する。

 釣り人ゾンビの朝は早い、そして悪天候のときほど彼らの数は増える。

 ジョギングを続けている小太郎も、なんとなく冬華に付いて海岸を走っている。

「タコいました」

「タコしか貰わないんだね」

「タコ焼きです、魚はいらないです」

 タコを袋に入れてブラブラと歩いて登校する冬華。

 ジョギングを止めて、今日は冬華と登校してみることにした小太郎。

 小太郎が隣にいることなど、まったく気に留める様子のない冬華。

 袋から這い出ようとするタコ、縛った口の隙間から足がウネウネと飛び出している。

(なんかゾンビより気色悪いな…)

 スーパーの前を通りかかった冬華、ピタッと足を止めて、ジーッと駐車場を見ている。

「どうした冬華?」

「……2号店…」

「えっ?」

 ボソッと呟いて、タタタタッと走り出した。

「えっ~?」

 慌てて後を追う小太郎。

 2週間ほどジョギングを始めて、それなりに体力にも付いたと思っていたが小太郎。

(あの小さな身体に、あの体力とスピード…)

 トタタタタタ…

 やたらと足が速い冬華、追いつくどころか、離されないように付いていくのが精一杯だ。

 学校に付くと、まっすぐ生徒会室に走っていった冬華。

「グッモーニン冬ちゃん」

「おはようです」

「今日もタコを焼くのかい?」

「今日は、2号店の準備をするのです」

 夏男にグイッと袋に入ったタコを押し付けて、屋台を引いてすぐに出ていった。

 バキンッ…

 その際に生徒会室のドアを破損したが、全く気にする様子はない。

 小太郎とすれ違うが、ガラガラと屋台を引いて、校門から出ていってしまった。

(なんで、あんなに体力があるんだ…あの娘)

 汗だくの小太郎が生徒会室に入ってきた。

「おはようございます」

「小太郎…冬ちゃんがコレを俺に…なんだと思う」

「……タコですよ」

「そうじゃねぇよバカ‼ 俺にタコを渡す意味は?と聞いているんだ」

「……とりあえず、水槽に入れとけばいいんじゃないですか、深い意味はないと思いますよ」

 生徒会室でタコ焼きを焼きまくっていた冬華、タコの足はタコ焼きに使用するのだが、本体は用事もないので、足を切ったまま、水槽で飼っているのだ。

「足はまた生えます、コスト削減の錬金術です‼」

 冬華が水槽に張り付いてタコを観察していたのだ。

「なかなか伸びてこないです…」


「うん…愛の告白で生きたタコはないよね、俺も解ってた」

 ドボンッと水槽にタコを入れて蓋をした夏男。

「しかし、足の無いタコの群れとは…なかなかに不気味というか…」

 秋季が水槽を扇子でコンコンと突いた。

「あら、なんか…共食いしてません?」

 足の無いタコは、足のあるタコに絡みつかれている。

「ふむ…だとしたら、足のあるタコが圧倒的に有利だな」

「独壇場だな…」

「今までは足が無かったから共食いしなかっただけなんですね」

「まぁ…野生の王国ですわね」


 水槽の中は、ゾンビが蔓延る世界より過酷でした。

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