第55話 ぴ~なっつばたー

 チンッ‼

 カリカリのトーストにハマっている冬華。

 冷蔵庫には、ズラッとジャムやらマーガリンやらバター、チーズなどが並べられている。

「最近はダブルなんだね」

 コクコクと無表情で頷く冬華。

 イチゴジャムとマーガリンとか、2種類の組み合わせを楽しんでいる。

「ピーナッツバターとイチゴジャム‼」

 大量に購入したコッペパンを軽く焼いたり、温めたりしながらアグアグと食べている。

「おすすめ」

 小太郎にコッペパンを差し出す。

「ありがと」

「ピーナッツバターとイチゴジャム‼」

(濃そうだな…)

「美味い、美味い」

 冬華は、気に入っているようだ。

「うん…不思議と美味いな」

「小太郎くん、太りましてよ…最近」

 春奈がツンッと小太郎の頬を突く。

「小太郎くん、太りましたよ‼」

 反対側の頬をつまようじで突き刺す夏男。

「何すんだアンタ‼」

「ハハハ、小太郎よ、確かに太ったぞオマエ」

「そうですか?」

 鏡で自分の姿を写してみれば…確かに顎回りとか…なんとなく…納得しないでもない。

 考えてみれば、朝ご飯を食べて登校して、授業までの間にハイカロリーなパンを食べて、昼食を食べて、パンを食べて、パンを食べて…帰宅して夕ご飯を食べて…

(なるほど…数食多いな…)


「というわけで、ダイエットの相談なのですが」

「なぜ私に?」

「立花先生、一応保健医じゃないですか」

「そうよ、先生は保険の先生よ、だからね、ラ〇ザップのスタッフじゃないのよ」

「いや、そこまで肉体改造は考えてないんです、軽い運動でと考えたんですが、どういう運動がいいのかと思って」

「食べるの止めたらいいんじゃない?」

「そうなんですが…断れないというか…」

「四宝堂さんのハイカロリーコッペを?」

「はい」

「ははぁ~ん…恋しちゃったとか?」

「いえ…単純に圧が怖いんです、凄いんです」

「……確かにね…あの子の無表情の圧は凄いわね」


 そんなわけで、ジョギングで登下校することにした小太郎。

 当然のように、邪魔をしてくる夏男。

「フハハハ、小太郎…そのままデブッて、ブ男として生き続けるがいい」

 魔王・二階堂の再降臨であった。

「痩せさせてなるものかー‼」


 翌日から、なぜか二階堂さんが優しく接してきたことを覚えています…。

「小太郎くん、寄って行かないか?」

 家の前には、なぜか屋台が設置され、二階堂さんが、タコ焼きを焼いていました。

「いえ…少し痩せようと思いまして…お気持ちだけで…」

「痩せていくのはゾンビだけで十分だよ小太郎くん、キミは食べたいものを好きなだけ食べればいいんだよ、さぁ…タコ焼きだよ…タコは入ってないけどね」

「じゃあ、小麦粉焼きじゃないですか」

「なんでもいいから食ぇつってんだよ‼」


 薄っぺらい優しさの仮面の下は、悪意しかありませんでした。

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