第52話 ふぉーるきんぐだむ

「なるほど…骸骨が焦げ臭い理由は理解した」

 秋季が納得いった顔で頷く。

「解ったかしら、ゾンビの餌付けは素人が手を出してはいけないのだということよ」

 立花先生が余った板チョコをパキッと割りながらふんぞり返る。

「大変なお仕事でしたのね」

「仕事は教師よ、保健医でもあり、まぁ餌付けは趣味というか義務というか…趣味ね」

 相変わらずコテージの外ではコキコキ…カタカタと骨が蠢いている。

「囲まれたわ」

「えぇ…最初からですけど」

「こうなったら徹底抗戦よ‼」

「信長ってこういう心境だったのか?なぁ小太郎よ」

「知りませんけど…光秀は、二階堂さんほどバカじゃなかったと思いますよ」

「あらっ、そう言われると負ける気がしませんわね」

「ハハハ、そうだ、たかが夏男ではないか‼」

 志気は上がったが状況は変わっていない。

 どうやらゾンビはマグマカレーが気に入っているのか不思議と夏男に従っているようだ。

「やっぱり、辛さは死を感じさせるんでしょうかね?」

「甘口だったら…後悔先に立たずってやつだな」

「冬華、甘いカレーなんてカレーじゃないと思います」

「そうね、それはそうよ、だとしたら…カレーは辛ぇという古典ギャグが成り立たないわ」

「カレーはかれぇ…どういう意味?」

 冬華が首を傾げた。

 ゴトッ…

 塞いだ窓から骨が突き出す。

「ファイナルラウンドよ‼」

 正面のドアを蹴破った立花先生、ヒールがドアに突き刺さって抜けなくなる。

「えっ?」

 一同が目にした光景はスケルトン軍団…が…熊やら猪やら猿に襲われている阿鼻叫喚の絵図であった。

「我が無敵のアンデッドの軍勢がー‼」

 赤いマントに反応した牛に追われている夏男が絶叫しながら駆け込んできた。

 バンッ‼

 ドアが閉められ片足でよろけた立花先生が突っ込んできた牛の追突の衝撃でひっくり返る。

「んがっ」

 仰向けのままビシッと夏男を指さし

「二階堂くん‼ 教育的指導が必要ね‼」

「牛怖い…牛怖い…」

 焼けた肉の匂い、香ばしい骨の匂いに誘われた野生の王国は明け方まで宴を繰り広げた。


 ギギギ…

 半壊したコテージから、そっと覗き見る小太郎。

 カタカタと地面に転がった骨が動いているが野生の動物は引き上げたようだ。

「危機は去ったようだな」

 ポンッと小太郎の肩を叩く夏男

「アンタ…どの面下げて言えるんだ‼」

「雨降って地固まる…そういうことさ」

「他はともかく、アンタだけは仕留めておくべきだったんだ…」

「フハハハ…まだだ、まだ終わらんよ‼」


 バカ笑いした夏男の声で目覚めた一同に縛り上げられ囚人のような扱いで最後尾を歩くことになった夏男。

「冬華が隊長です‼」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る