第43話 すろーだんす

 ピンポロン…ピピピピンバーンッ‼

「行き詰っているな、この感じは」

「作曲なんて簡単にできませんからね」

「にしても…夏男がピアノを弾けたとは意外だったな」

「無駄にスペックが高いんですね」

「あぁ…まったく無駄なんだがな」

「そういうトコなんでしょうね、意味なくイラッとさせるのは」

「そうだな、受け入れがたいのだろうな、あの技量と性癖のギャップを…」

「えぇ…知れば知るほどにですね」

 バーンッ‼

 本日、何度目のピアノの鍵盤バーンッ‼だろうか?

「いなくてもイラッと、うるさいですわねイラッと」

「アッチはなんだ…紙の無駄使いか、小さな環境破壊か?」

 冬華が冷えピタ張って紙をグシャグシャぽいっを繰り返している。

(どんな歌詞書いているんだろう)

 足元に転がっている紙くずを広げてみる小太郎。

『ロンリークリスマス ボブ・サップが駆け抜ける夜 サンタを追い越せ 追い抜け 飛び越せホーリーナイト』

(クリスマスソング作っていたのか)

「四宝堂…解ってる? 校歌だよ」

 コクッと頷く冬華

「冬華、スクールソング作ってます‼」

「スクールソング…校歌だよ…いやいいのか…な?」

「ハハハ、出だしがクリスマスとは、度肝を抜かれる仕上がり具合、期待を棒高跳びで超えてくるな冬華くん」

「そうですわね、聖夜も飛び越すくらいですもの校歌なんて踏み台にして名曲の予感ですわ」

「ミノタウロスのラビリンスのような迷曲が産まれることでしょうね」

「もはや我々も脱出不可能のようだな、ハハハ」


 それから1週間…

 ついに歌詞が出来上がった。

「1番‼」

 冬香が読みあげる。

『桜が咲くと訪れる 出会いと別れの並木道 自由を求めて抜け出せ枯井戸 希望を求めて伸ばせよ両手 掴んだ幸せ儚くて 踏みつけた過去にあの日の幸せ あぁ後悔を 散る花びらに重ね 門を潜れば 家令土高校』

「うん…よく解らないがネガティブな歌詞だな」

「なんでしょう…貞子的なDVDとか観ちゃったのかもしれません」

「ジャパンホラーの名作ですわ」


「2番‼」

『向日葵が咲くとやってくる 煩い虫と夜空の花火 涼を求めて籠れよ部屋に 西瓜を求めて向かえよ畑 盗んだ果物その場で食べて 残した皮に集る害虫 あぁ懺悔すら 白い月に擦り付け 校舎の雑草 家令土高校』 

「うん…難解かつネガティブが増してきたな」

「軽犯罪が混ざってましたね」

「草むしりしなければなりませんわね~」


「3番‼」

 冬華、無表情だが読み上げるテンションでノリノリなのが伝わって来る。


(春夏秋冬あるんだな…)

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