第34話 ごーいんほ~む
「疲れた…」
新年会は正午過ぎに解散となった。
年越し蕎麦を食べそこなって、うっかりうどんを食べていたことに気づいた秋季のテンションが激落ちしたためだ。
「年越し蕎麦ってくらいだからな…うどんじゃないから…なんたる失態」
その一言を最後に部屋の隅で、トランプをひたすら切り続けた秋季。
無駄に手つきがいいのが、周囲をイラつかせた。
「昼食はどうされますか? お嬢様」
爺やの、この一言が解散のトリガーだった。
パーティとは終わりどころか解らないものだ、ゆえに自宅パーティの最後はグダグダになることは避けられない。
「パーティは会場を借りることよ‼」
酔いがさめた立花先生の名言が、いつまでも小太郎の耳に残っていた。
「あう…あうぁぁー」
小太郎宅のリビングでパパゾンビ、ママゾンビ、姉ゾンビが切り餅を袋ごとゴリゴリと食べていた。
(正月だからね…ゾンビって歯が丈夫なんだな)
「あがぁ…あ」
姉ゾンビが小太郎に切り餅を1個手渡してきた。
「ありがとう姉さん、部屋で食べるよ」
「あぅ」
優しい姉ゾンビである。
2階の自室に入り、ドサッとベッドへ倒れ込む。
「ホントに疲れた」
小太郎は、そのまま眠ってしまった。
しばらくして…ゴトゴト…ゴトゴト…隣の姉ゾンビの部屋からの物音で目を覚ました。
「姉さん」
部屋を出た小太郎が姉ゾンビの部屋のドアを開ける。
「…………」
「…ん? あれ? 小太郎?」
「じゃねぇ‼ アンタ、
オロオロする姉ゾンビと…まさかの夏男。
「いやいや、今日は、ここに泊まろうかと思ってさ」
「思ってさじゃねぇ‼」
「まさか小太郎の家だとは…佐藤って、どこにでもいるよな、THE庶民って感じで」
「佐藤で上級国民だっているわ‼」
「確かに‼ だが…この家は違う‼ THE凡庸‼」
ビシッと小太郎を指さす夏男。
「大きなお世話だ……というか出ていけ…それ以前に、なぜいる?」
「俺はな…この世界を愉しみたいと思って生きている」
「何でも許されると思うなよ」
「贋金作り能力のオマエに言われたくはないね」
「うるさい‼」
「俺はな…寂しくなると、なんとなく美人だったんじゃないかな?と思われるゾンビの部屋に泊まることにしている」
「なんのために?」
「下着を漁ってみたり…なんか恋人を演じてみたり…まぁ、ママゴトの延長線上に歓びを見出したというか…そんな感じだ」
「で?」
「ん? 窓から見えた、このゾンビが小太郎の姉とはね」
「あぅあ…あぅあ…」
「喜んでるのかな?」
「怯えてるんだよ‼ 出ていけこの変態が‼」
ゾンビすら怯えさせる夏男という存在、世が世なら逮捕されていそうな男が身近にいる恐怖はゾンビが蔓延る世界を遥かに凌駕していた。
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