第32話 ぱーてぃないと

「さて諸君、本日はお集まりいただいてありがとう」

(なんだろう…他人の屋敷で、年末パーティで、なぜに、あの人は自分のために、ありがとう感が溢れ出ているのだろう…)

「今年も残すところ数時間となり、昼から続けていた年跨ぎパーティも4回目の中だるみを迎えることとなりました」

(2時間に一回、こういう空気になるんだよな…かれこれ8時間経ってるし)

 そういう空気感を感じない面子が2名、夏男・冬華。

 そういう空気を作り出す人2名、春奈と立花先生。

 その空気を愉しめる男が秋季、押しつぶされるのが小太郎なのである。

「どうでもいいわ、先生、お酒が飲めれば何でもいい時があります…今日がそう‼ そして今、シャンパンの瓶が、もう1本空きました」

 ゴトンッと床に瓶を転がす。

「冬華はチキンに飽きました‼ 牛が食べたいです」

「すき焼きの準備しちゃいましょうか?」

「いやいや鍋はまだ早いだろう、22時までは洋食メインでいきたいね」

 チャーハンを食べながら夏男が鍋を制止した。

「チャーハンって洋食なんでしょうか?」

「中国も外国だぞ」

 秋季の中では洋食に中華は含まれるようだ。

「あらっ、西洋の洋じゃなかったんですか?」

「僕も、そう思ってました」

「冬華、和洋折衷を愉しんでます‼」

 ポテトチップス…わさビーフ。

(そうか…アレは和洋折衷になるのか)

 気怠く、生産性を感じることのない時間が流れた…

「ビンゴですわ…」

「おおぅ、春香君が3度目のビンゴだ‼」

(秋季先輩、カラオケでマイクを離さないタイプだな)

 マイクを持つとテンションが駆け上がる秋季、ある意味では生徒会長向きなのかもしれない。

「景品はー‼ 噛まれても安心、救急箱だー‼」

(感染症じゃないみたいだから大丈夫じゃないかな)

「まぁ、私、バファ〇ン派ですのに…残念ですわ」

「生理痛のこと?」

 夏男の無神経な一言、シュッと春奈がナイフを飛ばしてくる。

 コンッ…

 軽い音を立てて夏男の耳をかすめて柱に突き刺さる。

(すげぇ…食事用のナイフが壁に刺さった)

 軽い流血を交えながらダラーッと24時を迎え、すき焼きが煮える頃、外は雪景色に変わっていた。

(そういえば…この人たちは卒業するんだろうか?)

 小太郎が卵を割った同時刻、廊下で婆やに残りわずかな髪の毛を喰われていた爺や。

「痛ぇっての、このババアは…年越し蕎麦じゃねぇんだワシの髪は‼」

 除夜の鐘を鳴らす和尚ゾンビ、心なしか鐘の音が小さく、そして不規則であったという。

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