第30話 らぶさばいばー

「で…話を続けますけど…爺やの能力はわからないと?」

「はい、解りませんわ」

(爺やの能力…気になる)

 生徒会室の後ろで除霊中の夏男なんかより、よほど爺やの能力が気になる小太郎。

「確かめませんか? 春奈先輩」

「爺やの能力を?」

「はい」

「ふ~ん…私は、特に気になりませんけど小太郎君が知りたいのなら聞いてみますわ」

 スマホを取り出して電話する春奈。

「爺や、えぇ…いえ学校ですわ…あのね爺やは何の能力を持ってますの? えっ? まぁ…そうでしたの…えぇ…」

 なにやら爺やと話し込んでいる春奈、その間も秋季のバカ笑いと冬華の奇声、そして夏男の悲鳴あるいは歓喜の?が聴こえてくる。

「解りましたわ…えぇ…じゃあ切りますわね」

「どうでしたか?」

「えぇ、今日の晩御飯は『おでん』だそうですわ」

「はい…爺やの能力…」

「あぁ、そっちでしたね…それが言いたくないそうで…」

「言いたくない?」

「えぇ…無理に聞くのもなんですし…」

「そうですね…確かに」


 その通りなのだ、個人の願望や性癖が強く影響するであろう能力の開花は、それを知られたくないという人の方が普通なのかもしれない、小太郎は春奈にそれ以上聞けなかった。


 ……

 電話を切った爺や、掃除機を引きずって歩く婆やを眺めていた。

「もう…喧嘩もできなくなってしまったな」

 爺やが、この屋敷で務めだして2年ほどして婆やがお手伝いさんとして雇われた。

 とにかく口が悪く気が強い婆やに執事である爺やは手を焼いていた。

 春奈の祖父は優しい人柄で、よく喧嘩していた爺やと婆やを楽しそうに見ていた。


 互いに結婚はせず、歳を取り春奈が産まれ、世話係を頼まれるようになっても、口喧嘩は絶えなかった。

 数十年、喧嘩しながら、この屋敷で暮らしてきたのだ。


 ある日、爺やが目を覚ます、屋敷の異変に気付き春奈の部屋へ向かう途中で婆やを見かけた…婆やは、ほかの執事やメイド同様にゾンビ化していた。

 幸い春奈はスヤスヤと眠っていた…目を覚まし動揺する春奈に説明するのは簡単な事ではなかった。


 あれから…

 爺やは婆やの肩にそっと手を置いた。

「結局…オマエが何を考えているのか、今も解らないままだ…」

 爺やの能力『ウィスパー・ウィスパー』

 触れることでゾンビの心を読み取ることができる。

 ゾンビは、ほとんど思考が停止しているので、聞いたところで「あぅあー」なのだが。


 あの日、ゾンビになった婆やの肩を揺さぶったときに目覚めた能力。

 婆やの思考が微かに残っていたときに聞こえた言葉。

「嬢ちゃんを頼みます……ゴメンね」


 あれ以来、爺やは婆やの言葉を聞けてはいない。

 でも、たまに触れてしまうのは…きっと自分の言葉を伝えたいからなのかもしれない。


「婆や、お嬢様は元気にしているよ…友達もできたようだよ」

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