第29話 はっぴ~くりすます

「一応、確認したいのですが…婆やはゾンビなんですよね?」

 小太郎が春奈に尋ねた。

「そうですわ、昨夜ご覧になったとおりですわよ」

「そして爺やはゾンビではない?」

「はい、爺やは元気ですわ」

「ということは…爺やは能力者ということですよね?」

「そうなりますわ」


 部屋の隅で布団に包まり横たわる夏男、風邪をひいたのだ。

 爺やに気絶したまま外に放り出されたからだ。

 さすがのバカも風邪をひいてしまった。

 振るえる夏男をうちわで仰ぐ冬華。

「熱が下がるといいです‼」

 一生懸命に冷やそうとしている、除霊といい、看病といい、親切を確実に仇に変えるタイプだ。

「ハハハ、性質が悪い、ただただ性質が悪いぞ書記はハハハ」

 その様子を見て楽しそうな秋季。

「黙れ…俺は幸せを感じている…女子から看病して貰っているという部分だけを全身で感じている‼」

 歯の根が合わずにカココココと歯を鳴らし震えながらも微笑む夏男。

(バカだ…本物のバカだ)

 冬華がピタッと仰ぐのを止めて製氷庫から氷を取り出す。

 ザラザラと夏男の布団の中に撒いていく。

 そして再び仰ぎだす。

(拷問だ、もうアレは拷問だ)

「爺やののうりょくでしたわね…そういえば…見たことありませんわ」

「マジですか?」

「はい、ありませんわ、爺や…何かできるのかしら?」

「できるでしょ‼ でなきゃ、ゾンビと見間違うような歳で生きている意味って何なんですか?」

「なんなんですかと聞かれましても…なんなんでしょう?」

「小太郎‼ 見てみろ、夏男の顔が…もう…もう…」

 顔面蒼白の夏男を指さして笑う秋季、心の底から嬉しそうだ。

 さすがにヤバイ状態だと気づいた冬華がアワアワしている。

 おもむろに窓を開けて手を伸ばし木の枝をベシッと、へし折る。

 掛布団を剥いだ冬華

「モコズキッチン‼」

 濡れたパジャマの夏男、その身体にオリーブオイルが注がれる。

(氷とオリーブのコラボか…初めて見た)

「ブハッ‼ 冷やしオリーブ始めましたってことか冬華君、キミ最高‼」

 もう秋季が止まらない。

「悪魔が憑りついたのです‼ 除霊です‼」

 冷えきって、滑りきった夏男の身体を冷えた木の枝でバシッバシッと叩きまくる冬華。

「出ていくのです‼ 悪魔よ‼ サタンの名のもとにアーメン‼」

(サタンの名のもとに?)

 信じられない顔色、痙攣し始めた身体、それでいて幸せそうに笑う夏男、憑りつかれているといえば嘘ともいえない。


「フハハハッ…それでも俺は幸せだーーーー‼」

 笑う夏男

「アワワワワ…去れ悪魔め‼ 去れーー‼ めーーー‼」

 必死の冬華

「サンタだってー‼ 今日は楽しいクリスマスー‼」

 秋季が壊れそうだ。


 秋季と夏男、そして冬華を冷めた目で見る小太郎。

(ハッピークリスマス…)

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