第28話 ですとらんす

「いやぁ~死ぬかと思ったね、実際」

 ちゃっかり春奈邸のクリスマスパーティに強制参加した夏男。

 額には小さな絆創膏が貼られている。

 立花先生の『テープマジック』で1枚出してもらった絆創膏である。

(包帯の方がマシなんじゃないかな?)

 明らかに傷口より小さな絆創膏を見て小太郎は思った。

 冷めきった冷凍食品を美味しそうに食べている夏男。

 後頭部に冬華が乗せたチャーハンなど冷凍に戻っている。

 それをゴリゴリと食っている夏男、本人が愉しんでいるのだからそれでいいのだ。


「まぁ、死んでもらっても構いませんのよ…ウチの敷地でさえなければ」

「そうだな、できれば遠い地で逝ってくれたまえ夏男よ、私も自宅の敷地内にオマエがいるのは不快だな」

「死してなお許されない罪ってあるんですね」

 夏男が食べかけた冷えたチキンを皿に戻す。

「そろそろ、俺泣くぞ…」

 うっすらと涙を浮かべながら、こちらを見ている夏男。

「不思議ですわ、微塵も哀れと思いませんわ」

「夏男とゾンビの夏男か…甲乙つけがたいほどに嫌なものだな」

「うわぁ…あっ…あぁ…うわぁぁぁー‼」

 ゴキンッ‼

 夏男の後頭部にシャンパンの瓶底がいい角度で投げつけられた。

 シュポンッ…

 栓が抜けて瓶がゴトンと床に転がる。

「四宝堂さん、シャンパンの開け方が違うわ…まぁいいけど」

 立花先生と冬華が硬いシャンパンの栓を抜こうと奮闘した結果、何かが起きたらしい。

(アクシデントだよな…わざとじゃないよな)

 疑いの目を立花先生と冬華に向ける小太郎。

 机にバタッと倒れた夏男、顔が冷凍チャーハンに埋もれる。

(逆に何で死なないんだろう…)

 部屋に身なりのいいゾンビが入ってきて気絶した夏男を運んでいく。

「爺やも元気そうだ」

 秋季がゾンビに向けて手を挙げる。

「爺やは、いつまでも私のそばに居てくれますわ」

「あの…爺やって?」

「ハハハ、会計は初めてだったな、副会長の爺やだ」

(どんな紹介だ…)

「というか…ゾンビじゃなかったんですか?」

 驚く小太郎。

 そういえば、屋敷に入ってから、やに身なりのいいゾンビがいるなとは思っていたが…

(動作が遅いから…ゾンビかと思っていた…)

 老人とゾンビの外観だけでの区別は難しい…場合もある。

「爺や、適当に外へ放り出しておいてちょうだいね」

 軽く会釈して夏男を引きずりながら部屋を出ていく爺や。

「婆や‼ 入ってきてはダメよ」

(今度は婆やか…)

 割烹着を来た小柄な老婆が部屋に入ってきた。

「あぅあー」

 空いた皿を下げようとしているようだ…。

(あっ…婆やはゾンビだ…)


 冬華が婆やに空いた皿を数枚手渡し婆やはヨタヨタと部屋を出ていく。

 ガシャンッ‼

 廊下の向こうで皿の割れる音がした。

(まぁ…そうなるわな…)




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