第22話 すの~ぼーるうぉ~ず
「もう脱いでもいいかな?」
夏男が甲冑の重さに音を上げだした頃、昼食時間を大きく回っていた。
「重いんだよ…関節が曲がらねぇんだよ」
「借りたものはキチンと返す‼」
前が見えないと早々に兜を脱ぎ捨て、汗かいてきたと鎧を捨て、なんか邪魔だと具足を脱いだ冬華が言い切る。
(この子は怖いな…)
「元々はアナタ達の争いに暇つぶし気分で付き合ったから、こうなったのよ‼」
「先生、それは責任転嫁というやつです」
「そもそも、何で言い争っていたのかしら……」
立花(保健)先生が思い出したように後ろで滑って転んだまま動かない甲冑を睨む。
無言で雪玉を握りビシッと甲冑にぶつける。
そう思い出したのだ、あの甲冑のせいだったと。
冬華も雪玉をぶつける。
ガンッ‼
冬華のは石入りだったようだ…まぁまぁの大きさだったようだ。
「痛くも痒くもねぇ‼ ただ自力で立ち上がれねぇ‼」
ボスッ…ビシャッ…ガンッ‼ ガンッ‼
全員から無言で雪玉をぶつけられる夏男。
冬華だけは、ただ石を投げてくる、もう雪を握るのが面倒くさくなったのだ。
「痛くも痒くもねぇ‼ ただ自力で立ち上がれねぇ‼ そしてうるせぇ‼ ガンガンうるせぇ‼」
どうやら甲冑の中は響くらしい。
「もう自分一人で、どうやって着たのか不思議でならねぇ‼」
「冬たんが、鎧を脱いでいたとき、正直、そのままジャージも脱がねぇかな~と思ってました‼」
ガンッ…ガガンッ…
(2連打?)
「甲冑を着たままで眼鏡がかけられねぇことを、これほど悔やむ結果になるとはなー‼」
ボコッ‼
(甲冑が凹むほどの一撃…さすが春奈先輩+金属バット)
「もう…もう後悔しかありません‼」
「ふむ…夏男のヤツ、甲冑で拘束され責められることに快感を感じているのではないか?」
秋季の推測は真実のど真ん中であった。
甲冑の中でハァハァしている夏男、その顔がフェイスガードで覆われていたことは全員の救いであったと言えよう。
「もっと…もっと俺に刺激と罵声を浴びせてくれー‼」
甲冑の隙間から湯気が立ち上る。
それが、ゾンビの口臭より不快に感じる。
「なんか感染しそうで怖いわ…あの子」
立花(保健)先生が右手をスッと差し出す。
サッと冬華がゴルフクラブを渡す。
春奈がコクリと頷く。
見ていられないと扇子で顔を覆う秋季、扇子には『スパーキング』
ツカツカと甲冑の頭部をクラブの先でコンコンッと突き…迷いのないフルスイング‼
ゴンッ……
金属音が鳴り…甲冑がビクンッと脈打ってガシャッと大人しくなった。
冬の帰り道、皆、無言で飲んだ缶のポタージュは、いつになく薄味だった。
「バイバイマネーで買いました」
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