第19話 りたーんまっち

「改めて開始‼」

 体育館の隅で脇腹を抑え悶絶している夏男の周りにゾンビが集まっている。

(もうすぐ食えそうとか思ってるのだろうか?)


 封筒を拾い、開ける3人。

 秋季『ゾンビの靴下 赤色限定』

(赤だけとは…難題だな)

 春奈『ゾンビの靴下 名前付き』

(今時、靴下に名前を書くものなのかしら?)

 冬華『ゾンビの靴下 穴あき』

(冬華、おしるこ飲みたい)


「小太郎‼ なかなかの難題…天晴‼」

「褒められてるわよ佐藤君、何を書いたの?」

「えっ? いや…まぁ時間が無かったので…」

 立花(保健)先生が封筒を拾い開けてみる。

『ゾンビの靴下 青色限定』

(この子、完全にパンティに引っ張られているわ…流されやすい子、先生、心配だわ)


 秋季はすでに体育館で部活動中のゾンビのズボンの裾をまくりだしている。

 春奈は、何やらブツブツとゾンビに話しかけている。

 冬華はタタタタッと体育館を出ていった。


「うむ…赤なんだか血が滲んでいるのか区別が難しいな」

 秋季が意外と難しい課題に苦戦している。

「まぁ…そうでしたの? ところで、靴下に名前は書く派?」

「あう? あぅあー…」

 春奈は聞いて回るつもりらしいが…どうなのだろう。


「佐藤君、コッチへ来なさい」

 立花(保健)先生が小太郎を体育館の端へ呼びつけた。

「アンタねぇ、どうして難易度というものを考えないの? これじゃあ先生帰れませんよ‼」

「お言葉ですが先生、言い出したのは先生ですよ」

「先生ね、サクッと終わりたかったの‼ 暇つぶしができれば満足だったの‼ 見なさい、ゾンビに話しかける子とゾンビの服を捲る子を眺める時間…耐えられないの‼」

「じゃあ止めたらいいじゃないですか」

「そうもいかないでしょ‼ 先生、ゴールなのよ‼ 先生の所に持ってくることでしか終わらないのよ‼ あの2人…先生が帰っても自宅まで持ってくるタイプよ‼」

「それは…まぁ…そういうタイプではありますね」


 かれこれ数時間、月が綺麗な寒い夜。

「小太郎…赤い模様でも…あるいは?」

「OKです‼」

「先生‼ 一ノ瀬 秋季 靴下を借り受けて参りました‼」

「優勝‼」

 ゾンビから剥ぎ取った靴下を高々と翳し、壇上へ上がる秋季。

「諸君‼ 明日からも私が生徒会長だ‼」

 バンッと広げた扇子『食ったパンの枚数を覚えているのか?』

 そんなこんなでゾンビも帰宅した体育館で帝王宣言をした秋季。


 そして、冬華は戻ってこなかった。

 おしるこを買いに行って、そのまま帰宅したのだ。


「おしるこ…もち入ってない…ハズレだ…当たったことない…」

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