第11話 わ~きんぐぷあ
「俺の…俺のアイデンティティが…あぁぁーー‼」
泣きながら生徒会室を飛び出した夏男が不登校になって3日目。
「夏男のヤツはどうしたというんだ?」
秋季が扇子をパチンッ…パチンッ閉じたり開いたりと完全に暇を持て余している。
「生徒会としては役職は埋まっているわけで、支障があるか、無いかと言われれば無いのが事実ですから…まぁいなくても問題は無いんですけどね」
小太郎が窓を拭く手を止めずに無感情に答える。
「そうですわね」
シレッと同意する春奈。
焼きたてアツアツのホットケーキとアグアグと格闘中の冬華も特に関心はないようだ。
「考えてみれば冬華君が転校してきた初日に解雇されたみたいなものだからな…無理もあるまい」
仕方なしと言った顔で首を左右にゆっくりと振る秋季。
(アンタが首にしたんだけどな…)
「正確には冬ちゃんがこの部屋に来て、ものの数分でしたわ」
無言で窓を拭く小太郎。
「ティッシュより薄くて軽い男だったな」
冬華がついに冷めないホットケーキを、バシバシ叩いて冷ますという、猫の手法を取り入れ始めた。
窓を拭き終えた小太郎がホットプレートの電源を切った。
ホットプレートに乗せたまま食べようとしていたからだ…。
(猫舌なのかもしれない)
立ち上がり汚れの無い窓の前に立つ秋季。
「サブ書記というのはどうだろう?」
「カタカナと漢字のバランスが取りにくいですわ」
(あくまで習字の問題なんだな)
「じゃあ…アレどうにかしなきゃならなくなるわけだが…」
扇子で校門を指す秋季。
うっすら雪が積もった冬の校舎、素足のゾンビが神輿を担いでウロウロしている。
そのうえでゾンビを煽っている男、そうカレイド高校生徒会元書記『二階堂 夏男』その人である。
「何を、おっ始めやがったんだ…あの人は…」
小太郎が頭を抱えた。
「ストライキかしら?」
「いや、クーデターだろう」
(失う物が無いって強いな)
「校内で神輿は禁止です‼ なんですその服装は‼ 校内で世紀末も禁止です‼」
立花(保健)教師がツカツカと夏男に近寄る。
手には餌付け用の残飯袋が握られている。
「ヒャッハー‼ もうこんな高校に通ってられるかー‼」
夏男は荒れていた、世紀末的なノリで荒れていた。
(ある意味、正しい姿なのかもしれない…あのスタイルが)
「冬華、ホットケーキ全部食べました‼ ケプッ…」
冬華の腹が満たされたころ、校門前で昭和の青春ドラマが始まろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます