第10話 だぶるぶっきんぐ

「驚きの能力だな」

「イタリアを飛び超えたイタリアンを見た気がしましたわ」

「書記ちゃんの手料理食べてみた~い」

「オリーブでバチャバチャですよ…きっと」

 クルッと夏男が振り返って小太郎に凄む。

「それでもいいんだよ‼ ブスが握ったおにぎりより、美人の食い残しを食べる派なんだよ俺は‼」

「夏男は、振り切っているな、アハハハ」

 秋季が笑い、隣で春奈が心の底から軽蔑した視線を夏男に送る。

(ゾンビでも、あんな目で見られてないのに…この人だけは…救いようがない)

 小太郎は、時々、夏男が惨めに思えます。

 もちろん同情はしませんが…。


 ツカツカと戻ってきた冬華

「除霊完了‼」

 なんかポーズを決めて得意気な冬華。

 いつの間にか、また眼鏡をかけた夏男の顔にベチャッとオリーブがヌメッとかかる。

「目が…目がー‼」

 塩入りオリーブが目に沁みたらしい夏男が天空の城で足掻いていた茶色スーツのように騒ぐ。

「まぁ、除霊完了ですわ」

「さて…そろそろ生徒会室に戻るか」


 生徒会室でお菓子を食べながら、くつろぐ生徒会の面々。

「困ったものだな」

 秋季がパタンとコミックを閉じる。

「何がですが?」

「漫画の続刊がでないのだ…」

「あ~…それは…」

「ケロケロ曹長の続きが気になってな」

「俺が描くか?」

 目が真っ赤な夏男、思いのほかダメージが大きかったようだ。

(ハイリスクな能力なんだろうか?)

「冬華は…描けません」

(期待されたと思ったんだろうか?)

 そんな中、黙々と書道に勤しむ春奈、顔に似合わず思い切りのよい男のような文字で

『生徒会長 一ノ瀬 秋季』

『副会長 三宮寺 春奈』

『書記 四宝堂 冬華』

『会計 佐藤 小太郎』

(僕だけ、墨汁薄めなのは…気にしすぎだろうか?)

『………』


「あらっ? 夏男さんの役職が…ないわ」

 春奈の筆がピタッと止まる。

 チラッと夏男を見る春奈。

(まぁ本人が気づいてないなら問題ないのかしら?)


 そう…秋季の一言で冬華は書記となり、夏男と被ったのだが、夏男本人も含め、この時まで、誰もそのことに気づいていなかったのだ。

『………二階堂 夏男』


 生徒会室の外の壁にペタッと張り出したメンバー表。


 自分が書記から外され、現在無職となっていたことに夏男が気づいたのは、それから1週間後であったという。


「冬華、書記やってます‼」

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