第9話 しーずにんぐおりーば~

「よし‼ じゃあ冬華君は書記で」

 当然のように生徒会入りである。

「冬華ちゃんは、書記ちゃんか~ちっこくて可愛いからな~黒板に手が届かない時は肩車してあげようかな」

 夏男の気持ち悪い笑みが春奈を不快にさせる、そう腐りきったゾンビよりも不愉快な存在、それが性的な思考が漏れ出した夏男である。

「冬華さんは何年生なの?」

「はい、1年生です」

「可愛いな~、可愛いな~」

 夏男が気持ち悪く嬉しそうだ。

「書記ちゃんは、何か特技はあるの?」

「書記ちゃん?…冬華は除霊が得意です‼」

 一同の飲んでいたココアをピタッと止めるほどのパワーワード『特技が除霊』

「ほう、除霊か…興味深い、そして頼もしい」

 秋季だけは動じなかった。

 この男は物事に動じないというか、全てを受け入れ消化する云わば精神的に悪食なのだ、そして消化器系が丈夫ということだ。

「冬香、除霊します‼」

 突然、立ち上がった冬華。

 ちっこいがツカツカと廊下へ向かって歩いて行く。

 なんというか…歩き方に迷いが無いというか初登校の学校とは思えない。

「よし‼ アレにします‼」

 3年生の教室で授業中のゾンビをビシッと指さす。

「まぁ、ゾンビを除霊とか斬新ですわね~」

「ゾンビであるだけでアレなのに、悪霊まで付いているとは…あのゾンビ、どれだけの業を背負っているというのだ」

「頑張れ~書記ちゃ~ん」

 なんとなく付いてきた小太郎、内心ワクワクしているのだ。

 意外とオカルト好きなのだ。

「除霊って…アレですかね、なんかエクソシズム的な感じですかね、悪魔祓いみたいな、ゾンビが暴れだしたらどうします?」

「ん? えっ? ゾンビって暴れるのか?」

 秋季が首を傾げる。

「見たことありませんわね~」

「いつも、ユラユラ…フラフラしてる、まぁワカメみたいなもんだぜアレ」

「アンタ達の中でゾンビはワカメなんですか?」


 そうこうしているうちに冬華は対象のゾンビの正面に立った。

 右手を着席しているゾンビの頭にかざす、左手でゾンビの眉間を指さす。

「モコズキッチン‼」

 ドバッ…とゾンビの頭に金色の液体がヌラッと注がれ、ゾンビの顔面に白い粉が吹きかけられた。

『モコズキッチン』右掌から大量のオリーブ、左手の指先から適量の塩が出てくる能力。

 ゾンビは霊でも悪魔でもないので無効。

「ヌラヌラしたゾンビになった…」

 小太郎が呟き、秋季がパンッと扇子を畳んだ。

 オリーブが滑ってゾンビが椅子から落ちる、首も落ちる…。

「冬華、除霊完了‼」

(除霊って…そういうことじゃないな…きっと)

 悲しい勘違いから生まれた能力であった。

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