第2話 ふぁんたすてぃっくすく~る

「僕の能力もアレですが…皆さんだって散々じゃないですか」

「言ってくれんじゃねぇか‼ 一年坊が~よ~ぉ」

 夏男が小太郎に絡みながら肩をグリグリしている。

「痛っ…痛たた…マジで」

「だから渡しただろう、バファリン、どうだ、もう一錠?」

 秋季がスッとバファリンを差し出す。

「結構です…」

「ところで、さっき私たちの能力がどうのと、おっしゃってましたけど~」

 春奈が小太郎の肩にペタペタ何かを貼っていた。

「春奈先輩…なんか染みるんですけど」

「あら? サロンパスは痛みに効くって…」

「もう…いいです」

 小太郎が窓の外をボーッと眺める…かじられた肩がジンジン痛む。

 校庭ではゾンビ化した元生徒がサッカーボールをズルズル追いかけている。

(体育のつもりなんだろうな~)


 楽しかった日常…憧れていた高校生活…全部崩れた。

「そう悲観したもんでもないぜ会計‼」

 スチャッと眼鏡をかける夏男。

「楽しいですか? その能力」

 カレイド高校三年 生徒会書記 二階堂にかいどう 夏男なつお18歳。

 容姿、中の下、拗らせた変態である。

 そんな彼が宿した能力『スケルトン・マインド』夏男が眼鏡をかけると女性の着衣のみが透過する能力。

 ほぼ裸族のゾンビ相手にはまったく用の無い能力である。

 ちなみに彼が眼鏡をかけると、春奈の形相が夜叉となるという限定的な付属効果も持っている。


「……透けねぇんだわ…コレが…」

「夏男、透けたとして…見慣れたゾンビでは、どうもこうもあるまい」

「俺はな‼ 腐ったゾンビも服の切れ端が付着してさえいれば、男か女かの区別がつくんだよ‼」

 夏男の目から大粒の涙がこぼれる。

「この世界が、まともな状態なら…状態ならば‼ 俺はスーパーアウトドア派であったでしょうね‼ 毎日、日が暮れるまで街を駆けずり回っていたでしょうよ‼」

「ゾンビだけ見てればいいんですのよ」

「なんだと‼春奈‼」

「コッチ見たら刺しますわよ」

 夜叉降臨…。

「役に立たない能力ってことですよ夏男先輩」

「オマエに言われたくねぇんだよ‼」

「アンタの能力なんて、ゾンビがいなくても何の役にも立たないんですよ‼」

「バカが‼ 女の裸が見れない世界なんて無いのと同じなんだよ‼ 俺はな…俺はなー…」

 いよいよ本気で泣き出したので秋季は、そっと洗顔シートを差し出した。


「バカな能力ですわね…」

 春奈がフーッと大きなため息を吐いた。





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