第29話 これでまるっと収まった……? 6


 一方、戦艦<シャルンゼナウ>の中では、ちょっと大変なことになっていました。

「トレアリィ姫! 待ちなさい!」

「待てって言われても待つわけ無いでしょ!!」

 自ら身を張って、銀河達が逃げるのを手助けしたトレアリィ。

 あのあと、ただ捕まってしまったわけではなく。

 シールドを展開して捕縛術法を切断して、作戦指揮所から脱兎のごとく逃げ出しました。

 それはいいのですが……。

 ホログラムのアキトと、警備用アンドロイド達が鬼のようにしつこく追ってきています。

 赤い捕縛用のビームなどで、捕まえようとするアキト達でしたが。

 トレアリィの逃げ足は意外にも早く、捕まえきれません。

「逃げ足が早いな……。ならば」

 アキトは艦内の車が通れるほど広い廊下を、走ります。

 彼は手に魔法陣を描き、術法を放ちます。術法の光が、肉食獣のように疾走ります。

 が、その術法はトレアリィの前の方へと、飛んでいってしまいました。

「何よそのへなちょこ術法……!」

 と舌を出して笑った彼女でしたが。

 その術法は床に着弾すると、土色をした液体に変わって、ぬるぬると広がり……。

 トレアリィが、その液体の中に踏み入れた瞬間!

 つるん、と足が滑り、彼女は勢い良く倒れてしまいました!

「!?」

 トレアリィは、すぐさま起き上がろうとします!

 が、かなり滑りづらくなっていて、なかなか起き上がれません。

 さらに、液体が体に触れると、ねばっとして体にまとわりついてきます。

 そうこうしているうちに。

「手間をかけさせる……」

 両目を釣り上げたアキトが、トレアリィの前に立ちふさがっていました。

(しまった、重力制御システムで浮かんでいればよかった……)

 そう後悔したものの、アフターフェスティバル。後の祭りです。

 アキトは捕縛術法で再び、トレアリィを捕らえると、別の術法で彼女の体を持ち上げました。

「……あいつらはまだか」

 アキトは、一見冷静に見えました。が、返ってその冷静な顔が、恐ろしく見えます。

 こんな顔の時、人が何をするか、わかったものではありません。

 一方、トレアリィの顔は怯えきった顔になっていました。

(どうしよう。エネルギーも切れちゃったし、このままじゃ、何をされるか……。助けて。銀河、助けて)

 彼女が、愛しい人の名を呼んだその時でした!

「警報! 衛星軌道上のグライス艦隊から、戦艦がこちらに向かって接近中!」

 と艦内放送がけたたましく響き渡りました!

「そうか。よし、私は艦の操艦に戻る。貴様らはこの女を艦橋へと連れてゆけ」

 アンドロイド達にそう命令すると、アキトのホログラムは光となって消えました。

 機械兵達と共に残されたトレアリィでしたが、彼女は、待ちに待った春がやってきたかのような顔で、心のなかでつぶやきました。


 いらしてくれたんだ……! ご主人さまが……!


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