第24話 これでまるっと収まった……? 1
第三話 これでまるっと収まった……?
少し前へと、物語の時間を戻します。
銀河と美也子、それにトレアリィが、修羅場を演じていた頃のことです。
下のリビングでは、アキトコアルとプリシア、グライスのペリー王妃達が、椅子に座ったり立ったりして、それぞれ何かを待っていました。
「アキト皇子。迎撃は行わなくても良いのですか?」
ペリー王妃が微笑みながら尋ねました。どこか意地悪な継母のような顔で。
「わたくし達の艦隊など、この船が隠れている間に攻撃すればよろしいのに」
「さすがは戦闘民族グライス人。容赦がないね」
アキトは笑いながら返しました。
彼は、ポーカーでいいカードを持っているというような、笑みを浮かべていました。
「しかし私はそんな野蛮なことは行わない。もっとエレガントに事を運びたいのだ。それに」
「何をしようと言うのです?」
アキトはペリー王妃を諌めるような口調で告げます。
「エレガントにといっただろう。もうじきこの艦は地球を出る」
その時です。
アキト達に、ついに来たかと、緊張が走ります。
TVから、AIの合成音声が流れてきました。
「グライス艦隊から通信が入っております」
彼はプリシアに向かって、顔を上へと向けて言いました。
「お前達は銀河たちに伝えに行け」
「あなたは大丈夫ですか」
「ホログラムマン達が艦を守っている。それに術法のフィールドもある。大丈夫だ」
「でも……」
プリシアが、不安げな表情でアキトを見つめた時でした。
脳内で耳鳴りのような音が聞こえ、続けて彼らの脳内に、男の声が聞こえてきました。
〔ペリー王妃、ご無事でいらっしゃいますか? こちらはグライス
〔とりあえずわね〕
鋭く厳しい声の男に、少しホッとした声で返事をするペリー王妃でした。
が、それをアキトが制します。
〔私はザウエニア皇子、アキトコアル・メル・ザウエニア。貴方方の王妃と王女をお客様として預かっている〕
〔要求と交換条件は何だ?〕
〔地球の現状維持、不介入と、我々の現状維持、不介入。それと引き換えにお二方、それに現地人達を解放する〕
〔不可能よ。もはやこの星の種族は我々のことを知ってしまった。我々が不介入を決めようと、彼らは我々を意識せざるを得ない。どっちみち、この星は我々と接触します〕
「……余計なことを喋らぬように」アキトは歯噛みました。「交渉しているのは私だ。人質の陛下はお静かになさっていればよいのです」
しばらくの間の後、外からの通信が入ってきました。反論を許さない声で。
〔上は、お二方、それに現地人の解放が先だと言っている。あと、殿下の武装解除も要求している。時間はあと3キュール後だ〕
1キュールとはグライスの時間でだいたい1分です。まあ、地球とだいたい同じですね。
〔拒否する。そちらの撤収が先だ。それから交渉に臨む〕
〔議論は平行線ということか。……お覚悟はよろしいですかね?〕
〔私には構わずやっちゃいなさい! それこそグライス魂というものよ!〕
〔了解しました。マジェスティ〕
そう答えると、艦隊からの通信は切れました。細い糸が切れたかのように。
アキトは歯噛みすると、
「おしゃべりすぎですな……!」
と一言言い放つと、ペリー王妃を指さしました。
次の瞬間。指先から紫色の電光が飛び、王妃の体を貫きました。
小さな悲鳴。王妃はその場に崩れ落ちました。糸の切れた人形にも似た崩れ落ち方で。
「アキト様!?」
「大丈夫だ。死んではいない。気絶させただけだ」
アキトはプリシアの悲鳴に対し、小さく吐き捨てるように言いました。
彼は動かぬままのペリー王妃の姿から視線をそらすと、プリシアに向かい言いました。
「プリシア。もうすぐ戦闘が始まる。お前達は上に行って銀河のところにでもいろ」
「いいえ。私もここに残って、お手伝いしとうございます」
「大丈夫だ。プリシア。私達だけで十分だ」
「……」
アキトの何気ない答えに、プリシアは捨てられた犬や猫のような目をしました。
しかし彼は目を見ることもなく、通信でホログラムマン達へ矢継ぎ早に指示を出します。
その時プリシアの脳内に、彼女と似たような声が響いてきました。
プリシアの宿主、天宮綾音です。彼女は、ちょっとだるい声で、プリシアに言いました。
〔プリシアぁー。もう、いいよー。上に行っちゃおうよー〕
〔……わかったわ。綾音〕
宿主の催促に、寄生者は肯定しました。
そして、今度は近くにいた元恋人に向かってお辞儀をしました。
「わかりましたわ。上に上がって、待機しております」
「うんうん、プリシア、いい子だね」
彼女の決別も知らず、アキトは機嫌良く頷きました。
プリシアは踵を返すと、銀河の部屋へと向かいました。
彼女は遠ざかる元カレの姿を背中に感じながら、心で泣いていました。
(私のことなんて、もう飽きちゃったくせに……。アキトの、莫迦……)
女と男のすれ違い。なんて悲劇的で、なんて喜劇的なのでしょうか。
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