第11話 風呂場でご主人さまと僕に囁いている 11
「う、うーん……」
イズーが意識を取り戻し、起き上がろうとしていました。
そして、胸と腕の違和感に気がついたのか、
「あ……?」
顔と腕を幾度か動かしました。そして、
「わ、私の胸が〜! それにこの手錠は何〜!?」
手錠を掛けられた両腕で胸を隠し、見上げて三人に訴えます。
その訴えに、ディディは先程イズーがしていたような、キザで嫌味な笑みを見せ、
「あんさんは銀河はんに蹴られて吹っ飛ばされたでやんす。その時にスーツが燃えて胸が丸見えになったみたいでやんすねえ。男装が暴かれた気分はどうでやんすか?」
「どうもこうもないわよ〜! あなた達、何をしたのかわかってるの〜!? 銀河婦女暴行罪よ、暴行罪〜!」
「あんさんは、銀河誘拐未遂の罪を犯したでやんすが? それに言葉遣いが女性に戻っているでやんすよ? さっきまでの男っぷりはどうしたでやんすか?」
「人工生命体ごときに、そんなこと言われたくないわよ〜! このポンコツプログラム、とっとと手錠を解除しなさい〜!」
「あ、銀河人工生命体人権罪にも抵触したでやんす。犯罪歴プラス一でやんす」
「あなたねえ〜!!」
「あんたさっき自分で自分のことポンコツ、って言ったわよね……」
二人の言い合いに、美也子は小さな声でツッコミました。
「そもそも、あんさんは銀河ストーカー法にも抵触しているでやんすね。さらに王族に危害を加えたとして、銀河不敬罪にも抵触したでやんす。よって、四連コンボで……。情報化刑か、凍結刑か、人格矯正の上奉仕刑とかが妥当でやんすね」
「そ、そんな〜!? 私はトレアリィ様が好きだっただけです〜! 姫様に近づきたかっただけです〜! ね、それだけですよね〜!? 姫様〜!」
イズーはトレアリィに助け舟を求め、彼女に力ない声をかけました。
が、彼女は吹雪のように冷ややかな視線をイズーに投げつけるだけです。
トレアリィの冷酷な表情に、イズーは、ひぃ、と息を飲みました。
トレアリィは続けて、無感情な声をイズーに浴びせます。
「あなた……。わたくしに何をやったか、わかってるつもり……? 捕縛術法の痛み、忘れてませんわよ……!!」
「ヒィィィィィィィィ!!」
「あ、銀河傷害罪×三もあったでやんすね。これで終身刑もありでやんすかねー」
「ちょっと……、反省……、しましょうか……」
「い、いやぁぁぁぁぁ〜!!」
その瞬間、イズーの手錠から電撃が流れ、彼女の体が大きく震えました。
電撃が止まると、イズーは再びピクリとも動かなくなりました。また気絶したようです。
その様子を見て、美也子は慌ててディディを突っ突き抗議します。
「ちょ、ちょっと! あんた達、犯罪者とは言え、女の子をそこまで傷めつけてどうすんのよ! 死んじゃうでしょ! これじゃ!」
「死んだらクローン再生と意識移植で復活させるでやんすから問題ないでやんすよ。リブリティアやザウエニアでは、複数の肉体を持つのは、上流階級の特権というか、ぜいたくだったりするでやんすからね」
「そんな問題じゃないー!」
「肉体の急速再生手段もない未開人はこれだから……」
「ちょっと、あたし達を未開人呼ばわりしないでよ!」
「事実を言っているだけでやんす!」
「……!」
「……!!」
そう言い合いしている間、銀河といえば、二人の様子をニヤニヤと見るばかりでした。
本当に人が変わったようです。
その時、イズーがまた息を吹き返しました。
「ぐっ、ぐっ〜! よ、予定した時間より過ぎちゃった〜! もうそろそろ、艦長が転送してくれる頃だけど〜!」
イズーが息も絶え絶えに言いながら、起き上がろうとしたその時です。
黒い端末から、竪琴をかき鳴らすような電子着信音が聞こえました。
その音に気がついたディーディーが、
「お、来たようでやんすね。イズーはん、お主はもう逃れられないでやんすよ」
リビングの超大型液晶TVの方を向き、視線を合わせます。
するとTVの電源が自動的に入り、ある風景を映し出しました。
──それは、黒く広がる宇宙の中に浮かぶ、小さな青い宝石。そう、地球です。
TVに映しだされた映像を見て、美也子は目を大きくして声を上げました。
「う、宇宙!? これ生なの!?」
「TVとあっしと、グライス艦艇のカメラをリンクしたでやんす。今はこの惑星の光景を映し出しているでやんす」
「随分小さいわね……。地球から離れているの?」
「そうでやんす。現在我々の艦隊は──、この惑星の第一衛星近辺に位置しているでやんす」
「って──、月?」
「現地語ではそうみたいでやんすね。──さて、カメラを切り替えてみるでやんす」
その声と同時に、映像が切り替わりました。
変わって目の前に広がるのは、白灰色で無慈悲な女王の衛星。──月の姿。
その月の近くに、キノコにもクラゲにも似た白く巨大な物体が四つと、船にも飛行機にも似た小さな何かが多数浮かび、何かを取り囲んでいます。
囲まれている何かは、囲んでいるものとは似て異なる、船のようなものでした。
「あのキノコみたいなの、さっきの動画で見たわ!」
「グライスのステーションシップでやんすね。沢山の人や他の艦艇を載せて恒星間を旅し、植民などの時には宇宙ステーションになるでやんす。多くの星間国家では、ステーションシップや都市船などで宇宙を旅することが、多いでやんすね」
「そんなのが四隻も……」
「久しぶりだな。グライスのステーションシップを見るのは」
(……見たことがある……。こいつの正体も宇宙人なのかしら?)
『銀河』の声にいぶかしがりながら、美也子は無視を装います。
「で、囲まれてるのが──」
「そこのストーカーが乗ってきた船やんす」
「これから何を……」
「トレアリィ姫様へのストーカー罪及び誘拐未遂罪の共犯者の逮捕でやんす。具体的には、艦の無力化、海兵隊の強行突入による共犯者の一斉逮捕でやんすね」
その時、取り囲んでいた宇宙船の一部が輝き、次々と光を放ちました!
光線達はまっすぐ、イズーの船へと飛んでゆきます!
「あっ、囲んだ船から一斉に光が!」
「集中砲火でやんす! 直撃でやんすね!」
「なんかあっちの船が輝いてるわよ!」
「シールドだな。でもこの一斉射撃にそう長くは耐えられないはずだ」
『銀河』の話通り、無数の光線を浴びた船のシールドは、あっけなく消滅!
続けざまに無数の光線を浴び、艦体のあちこちから炎を吹き上げます!
「あ、ああ〜!」
イズーが悲鳴をあげるまもなく。
彼女の宇宙船はくるくる回転しつつ、月へと落ちていきました……。
──この時。地球から見えた幾つもの光と、多数の宇宙艦隊の姿。
イズーの宇宙船が墜落した際に、月にアポロ宇宙船で着陸した宇宙飛行士が、月面に設置した地震計が観測した振動と、舞い上がった砂煙。
それらの証拠により地球人は、異星知的生命体の存在をはっきりと知りました。
この時から、地球の『開国』。
人類の目覚めは、始まったのです──。
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