第27話 白いもふもふ
ニヤニヤ笑っている三人を不審に思うアリア。
一体何を企んでいるのか……。
「シェパーデス、届いたものをこっちに連れてきてくれ」
「こちらに……ですか?」
迷いを見せる執事がちらっと見やるのはアリアだ。
「早くしろよ」
クロヴィスが苛立った声を出すと「承知いたしました」と頭を下げるシェパーデス。「ここへ」と手を打ち鳴らすとリードを持った従僕が角を曲がってやってくる。連れているのは白いモフモフした大型の生き物だった。
「わんちゃんだ!」
アリアは椅子の上に立って無意識に避難行動に出ていた。シルバーブルーの瞳が射抜くように見てくる。とても大きい。アリアより大きいだろう。
クロヴィスは従僕からリードを受けとると、見事な白い毛並みに手をやる。慣れた様子で顎の下を撫でると犬は心地良さそうに目を細めた。
「そのわんちゃん、どうしたの?」
アリアが椅子の上に立ったまま聞くと、「犬じゃねーし」とクロヴィス。
「白いわんちゃんじゃないの?」
「ハア……、アリア。コイツがだだの犬に見えるか?」
「白くておおきいわんちゃん」
黙って見てくるクロヴィスにアリアがきょとんとするとカーマインとスヴェンが笑い出す。
「アリアちゃん、この子は犬じゃなくてオオカミだ」
「オオカミ!?」
「そうだよ。卒業パーティーで珍獣ショーをやった旅芸人から、クロヴィスが譲り受けたんだ」
「大金、払ったけどな」
「アリアちゃんのためなら惜しくなかっただろー」
カーマインがクロヴィスを肘でぐりぐりする。
「自分で欲しくて買ったんだよ!!」
「ハイハイ」
「アリア、よく聞けよ。オオカミはあまり人に姿を見せないから捕まえにくいから見世物小屋でもあまり見かけないんだぞ。さらにこいつは白毛だからもっと珍しい」
「向こうは手放したくなかったみたいだけどな」とカーマイン。
「こいつでかなり儲けようとしていたみたいだし」
「でもなぜかクロヴィスに懐いちゃったんだよね。だから相手も最後はあきらめて」
クロヴィスは得意満面だ。
「希少動物だ。お前、ありがたく思えよ」
「アリーにくれるのっ」
「ちげっ、やらねーよ!!」
「まーた照れちゃって」
「すぐツンデレ発動する」
「うるせーなっ。アリアにやるんじゃなくて世話を頼むだけなんだよ。俺は士官学校に行かなきゃなんねーし、ペットは連れていけねーから」
(ふーん、なるほどね)
アリアはオオカミをじっと見つめてみる。オオカミは気高い顔つきでツンと済ましていたがアリアと目が合うと、「フス」と鼻を鳴らした。
見た目の迫力で驚いたが、大人しくお座りしているのを見ると大丈夫そな気がしていくる。それでもまだ椅子の上に立ったままもじもじしているとクロヴィスが「はあ」と大きくため息をついた。
「こっち来い。触ってみろ」
クロヴィスは、かったるそうにアリアを手招く。
「まだちょっと……すごくおおきいし」
あの口ではアリアなど丸飲みだ。
「大丈夫だよ」心配するアリアに、カーマインが笑顔で安心させる。
「めちゃくちゃ大人しいんだ。ぜんぜん吠えないし」
やや乱暴な手つきで犬の頭をガシガシなでる。
「ほら。利口だ」
「お前も触ってみろって」
クロヴィスがブンブン手を振って呼んでくるので、しぶしぶアリアは椅子から下り、じわりじわりと近づく。
「わっ、とってもふわっふわ!」
えいやっと触って感動した。毛足がずいぶんと長いらしく、もふりと手が見えなくなるほど埋まる。
「おにいちゃま、この子、とってもふわふわ。ぬいぐるみみたい」
「お、アリアちゃん気に入ったみたいだね」
「よかったねー、クロヴィス。怖がるかもって心配してたもんねぇ」
カーマインとスヴェンが両サイドから絡むように言うと、クロヴィスは「心配してない」と寄りかかってきた二人を振り払う。
「アリーがお世話するんだよね。散歩とかしなきゃだめ?」
オオカミの飼育ってどうやるの?
眉をしかめていると、不機嫌になるクロヴィス。
「何だよ、嫌なのかよ」
「エッ! ううん、とっっってもうれしいよっ、超ハッピー。すっごくもふもふしてるし大人しくてかしこそうだもん。おにいちゃま、ありがとう!!!」
やったやったーと喜びのダンスをすると、クロヴィスは「へ」と笑ったが機嫌は直ったらしい。
「この子、お手するかなあ。アリー、この子といっしょにねたいなあー♪」
きゃっきゃっとはしゃぎ、もふ毛を触りまくるとオオカミは「フスン」とまた鼻を鳴らす。
(ん、なんだかバカにしてない?)
目を合わせると、ぷいっとそっぽを向く。
(ふーん、人間ごときに媚びは売りませんって? ……わたしはクロヴィスに媚び売りますけど?)
生きるって大変なのよ。
それはともかく。
「この子のなまえある?」
アリアが聞くと、「あー、それなんだけど」とスヴェン。カーマインがクロヴィスをニヤニヤ見ている。
「アリアちゃんが決めていいんだって。ね、クロヴィス」
「ほんと?」
「……まあ。べつに好きにしたらいい」
「わあっ、じゃあね、じゃあねえ」
オオカミはツンと顎を上向けていたが、アリアがなでようとすると耳をペトと寝かせて、頭を撫でろというようにぐいっと前のめりになった。
(名前、名前……白色で目はシルバーブルーでしょ。うーんうーん)
良い名前を付けてやりたい。ぴったりの名前。
アリアが眉間に皺を作ってうんうん悩んでいるのを見て、クロヴィス、スヴェン、カーマインの三人は視線を交わしながら笑う。
「思いつかねーなら、俺が——」
実は考えていた最高の名前をクロヴィスが口に出そうとした瞬間。
「ウルウル」
アリアが大声で言う。
「この子、ウルウルにする!」
「う、うるうるぅ?」
めちゃくちゃ不満そうなクロヴィスだが、「いいんじゃねえの」とオッケーを出す。
「お前はウルウルだ」
カーマインがぽんっとオオカミの頭に手をやると、
「ガウ」
「お、吠えた」
「気に入ったみたいだね」
スヴェンがアリアに微笑みかける。
「うん。ウルウル、今日からよろしくね!」
ウルウルは大きな尻尾をぶんっと振って喜びを示した——とアリアには見えた。
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