第3話 聖女の誕生
隣国から亡命して来た後ろ盾のない孤児のリリアーヌを、プロヴァリー王家はジェレミー王太子の婚約者として歓迎した。
その理由は?
謁見の間、壇上の王座からプロヴァリー国王は、礼装ドレスに着替えたリリアーヌがスカートを摘まみ、腰を下げて礼をする様子を微笑ましく見つめる。
そして温かみのある声で話しかけた。
「リリアーヌや、よくこのプロヴァリーに来てくれたね。
あなたは、主神フレイアが王国の窮地を救うために遣わしてくれた聖女だ。
これから聖女の奇跡を、このプロヴァリー王国でもぜひ起こして欲しい。
そうすれば王太子との結婚に文句をいう者など、誰ひとり居なくなる」
「えっ? 奇跡、ですか……」
王を前にして緊張しているリリアーヌの隣にジェレミー、斜め後ろにニコラが跪いている。
乳兄弟のニコラはリリアーヌにとっては弟のような存在で、父親のラグランジュ侯爵も目をかけて養子縁組をしていた。
侯爵夫妻や乳母が亡くなった今、リリアーヌとニコラはお互いを守っていかなければ、と決意していた。
リリアーヌは無意識に父から贈られた、今となっては形見の腕輪に触れた。
「大丈夫、僕がついている。リリアーヌが僕の言う通りにしてくれたら、きっとうまくいく」
自信たっぷりのジェレミーに、戸惑うリリアーヌ。
ニコラはその様子を後ろから、心配そうに見ていた。
プロヴァリー王国に来てから、リリアーヌが最初に連れて行かれたのは、大墳墓の遺跡のある銀鉱山の麓だった。
この付近では、スケルトンや
王国は度々、教会の聖職者から助力を要請し、また軍を用いて何度も討伐を試みた。
でも、後から後から湧いてくる魔物に結局どうにもならなかったという経緯がある。
大墳墓まで行く途中、薄暗い森の中で何体かの
リリアーヌたちを護衛する騎士団に、緊張が走る。
リリアーヌは馬車を停めさせて降りた。
彼女の右にはジェレミー、左にはニコラが付き添う。
ニコラに促されると、リリアーヌは落ち着いた所作で
次々に倒れて動かなくなる
そして穴を掘って不浄の魔物を埋め、処分していった。
大墳墓まで騎士団によって護衛されたリリアーヌは、入口周辺に居たスケルトン兵を浄化し、更に勇敢にも中に入ってすべての魔物を眠りにつかせた。
「すごい、すごいよ! リリアーヌ。見て、この大墳墓の中にあった財宝の数々を。本当に素晴らしい」
ジェレミーは瞳を輝かせ、リリアーヌを抱きしめた。
これまでの成果に興奮を隠せない様子だ。
「まったく隣国は馬鹿なことをした。聖女の一族を滅ぼすなんて」
側にいた騎士団長も王子に追随するが、リリアーヌの顔が曇る。
両親を亡くしたあの惨劇を思い出したのだ。
リリアーヌの気持ちをニコラだけが気づき、そっと手を握る。
そうして、銀鉱山の開発を始めることが出来た。
度重なる災害と戦争によって疲弊していたプロヴァリー王国は、これによって財政を立て直すことが出来た。
また大墳墓浄化を目撃した騎士団から人々へと、リリアーヌの功績が広まっていき、聖女としての名声が高まった。
ジェレミーは更なる功績を求めて、リリアーヌとニコラと共に、古戦場砦跡地や塩湖など、国中のあちこちへ旅してまわった。
リリアーヌは後になって、この頃のことをよく思い出した。
「……プロヴァリー王国に来てから、あの頃が一番幸せだった。
ジェレミーも私も、お互いを信じ、希望に輝いていた。
スケルトン兵を眠りにつかせた後の塩湖の浅い湖面に映る暁の空、ジェレミーとニコラ、私の三人で喜びはしゃいでいた。
あの日の世界の美しさ、かけがえのない私たちの友情は、失われてしまった」
やがて聖女の評判は、周辺国を超えて大陸中に広がっていった。
プロヴァリー王国の国境地帯で紛争していた国々も、神罰を怖れて協定を結ぶに至る。
リリアーヌが成人すると、それが当然のようにジェレミーと結婚した。
美貌の王子と救国の聖女の結婚の慶事は、お伽噺か神話の世界のようで人々を熱狂的させ、祝祭はひと月以上も続いた。
民衆はこの先の未来もずっと、さらなる王国の繁栄を願い、それが実現することを疑わなかった。
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