第2話

 なんとなく、彼女に会いたいなと、思った。


 仕事中。少しだけ、集中が途切れる。

 汚れ仕事。気分も、暗くなる。身体に影響はないが、心が、陰惨な気分になってきていた。


「おい」


 同僚。肩に手をかけられる。


「交代しよう。さすがに、長く詰めすぎだ」


「情報だけは引っ張った。あとは動線をつけるだけだ。俺の手でやるよ」


 いま替わると、引き継ぎが面倒だった。重要な部分は、暗号化してある。自分の頭のなかにしか、解除方法がない。


「そうか。じゃ、もう少しだけだ。俺は後ろにいる」


「頼むよ」


 少しずつ、細かい作業を終わらせる。

 企業と国が組んでの、大規模な租税回避地帯タックスヘイヴンへの資金移動。大量の金が、一部の人間の都合で、どんどん別な何かに切り替わっていく。


 これに関わっている人間を、全員いますぐ糾弾してやりたい気分だった。その片棒を担がされている自分も、殴りつけてやりたい。


 まだ、だった。


 同僚と一緒に、官邸の覆面調査官をしている。

 証拠も押さえた上で首を狩るには、全ての資金移動が終わるのを待たなければならなかった。それまでは、こうやって、キタナイ金の移動を延々と続けなければならない。


「限界だな。代われ」


「そうだな」


 同僚と替わった。


「暗号部分は明日に回そう。そのほうがお前の負担が少ない」


「助かるよ」


「行ってこいよ。いつものバーに」


「ああ」


 彼女に会いたい。


 すべてを偽る生活の中で。彼女だけが、本物だった。



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