第8話 記憶とはつまり苦しいものである
4月はかなり濃厚な日を過ごしている気がする。
学校の予定は薄いのに、だ。
中島がエロゲを買うのを見てから.....本当に色々な事が起こった。
何が起こったかといえば.....そうだな。
中島がもしかしたら微かにしか覚えてない幼い頃の引っ越しで別れた女の子かもしれないかも、という事とか、だ。
だが実際の所、これは曖昧になった。
色々あって、だ。
「お兄ちゃん。どうしたの?」
「な、何も無い。大丈夫だ」
「.....本当に?何だか怪しいんだけど.....」
「何がだ。俺は何時も通りだぞ!?」
柚は少しだけ気持ち悪い的な感じの目をしている。
まあ.....それもそうだろうな。
そう言われるのはさっきからモゾモゾしているからだろうけど。
何だか.....山城に買い物に付き合ってと言われてソワソワが収まらないのだ。
山城は俺を好いているからそのせいもあるかもしれない。
何だかずっとこんな感じだ。
彼女が居ない男ってみんなこんななのか?
でもちょっと待て。
山城は何故.....俺が好きなんだ?
「柚」
「.....どうしたの?お兄ちゃん」
「山城って.....俺を何で好いていると思う?」
俺は頬を掻きながら聞く。
お茶を飲みながら目をパチクリした柚。
それから.....俺の座っているソファの近くのソファに腰掛ける。
そして俺を苦笑しながら見てくる。
分からないけど魅力が有ったんだよお兄ちゃんに、と言葉を発した。
「お兄ちゃんは優しいからね。昔から。だから好かれたんだよ」
「.....そうか.....?でも俺は.....至って普通の生活だよな?」
「.....お兄ちゃんは昔から人を救ってきたじゃない。だからだよ。その恩が返ってきているんだと思うよ」
「.....」
昔から、か。
そんなに優しいのかな俺。
昔からでは無い気がするが.....でも。
確かにそうなのかもな。
俺が無自覚なのかも知れない。
「.....私が幼馴染だったらお兄ちゃんの事、気に掛けると思うな。だからだよ」
「.....そうか。有難うな」
「でもいきなりお兄ちゃんが2人も女の子を連れて来たのはビックリだよ。本当に。お兄ちゃんモテ期来たんだね」
「.....そうなのかね。.....でももしかしたらそうかもな」
お兄ちゃんが一人前になるまで支えるのが妹だからね、とドンと胸に拳を叩いてそのまま張る柚。
俺はその姿にソファに置いてある持っていたクッションを置きながら苦笑する。
何だか落ち着かないから持っていたのだが。
それから.....笑みを浮かべた。
「お前が妹で良かった」
「.....私はお兄ちゃんがお兄ちゃんで良かった」
言いながらクスクス笑い合う俺達。
それから.....柚は俺に向いてくる。
お兄ちゃんも何か飲む?、と言いながら、だ。
俺は、ああ。入れてれるか?、と答える。
「.....じゃあホットなお茶を入れるね」
「ああ。有難うな。感謝だ」
そうしていると。
スマホのメッセージアプリだが.....メッセージが入ってきた。
その人物は山城だ。
愛犬だろうけどそれがアイコンになっている、美玖という名前を開く。
そこにはこう書かれていた。
(買い物、とても楽しみにしてる)
「.....アイツめ.....」
「何?美玖さんから?」
「そうだな。山城だ」
そうなんだ。
イチャイチャだねぇ、と小馬鹿にする様に俺をニヤニヤした感じで見てくる柚。
俺は、よせやい。からかうなよ、と慌てる。
それからメッセージにドギマギしながら返事を打つ。
(そうだな。楽しみだな)
(こんなに楽しみなの久々だから.....)
顔文字の(#^^#)的なのを送ってくるその様な文章。
何時も恥ずかしがり屋だから.....こういうのはギャップが有って良いな。
俺はつい、こう打ってしまった。
赤面しながら、だ。
(可愛いな.....)
(.....え!?)
「.....あ。可愛いって送ってしまった」
「ラブラブだね。お兄ちゃん」
山城は多分、真っ赤になっているだろう。
これはしまったな、と思いながら直ぐに訂正をする。
可愛いんだけど.....その、何だろう。そ。そう!愛犬の事が、だ!と訂正する。
すると柚が、うわー。やっちゃった、とドン引きした。
え?と思っていると送ってくるメッセージも(/_;)的な感じになった.....え!?これ駄目なのか!?
私じゃないんだ、とも、だ。
(や!山城!ゴメン!すまん!お前も可愛い!)
(.....本当に?)
(そ!そうだ!すまん!)
(有難う)
顔文字で(*'ω'*)を送ってくる。
ああもう可愛いな!畜生め!
コイツが昔から居たら.....と考えて。
ふと苦い記憶が蘇る。
俺が.....俺が?.....俺.....。
「.....お兄ちゃん?.....お兄ちゃん!?」
気が付くとスマホを床に落としていた。
と同時に.....俺は発作が襲ってくる。
喘息じゃないがゼエゼエと呼吸の、だ。
お兄ちゃん!薬!、と柚が直ぐに青ざめながら持ってくる。
それを水で飲みながら.....深呼吸をする。
そして胸に手を添えた。
「大丈夫?飲んだ?.....随分と久々だね.....」
「.....すまん。気を抜いた」
「.....」
柚は俺の背中を摩りながら悲しげな顔をする。
俺は唇を噛んで真正面を溜息を出して見つめる。
何でこんななのか.....俺は。
楽しかったのに台無しだ.....。
情けないな本当に。
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