第16話 とりあえずやってみろ

正直、あの話の後、営業時間に何をしてたのかあんまり覚えていない。


いつものルーティーンになっている、夕方に小学生や幼稚園保育園児のカットをこなし、サラリーマンのお客様を何名かカットして終わるようないつもの日常をなんとなくやり過ごす。帰ってきてご飯を食べ、お風呂に入る。


一息ついたところで、カバンからスマホを出す。


「今、話せる?」LINEを送るとすぐに既読がつく。「どした?いいけど」


千枝理はすぐ電話をかける。

「どした、なんかあった?」

いつもの優しい声。

「りょ〜〜〜〜う〜〜〜〜〜!!!もう、結構な事件よ、どうしていいのかマジでわかんないんだけど!!」

「何、とうとう千枝理おねーさまにも彼氏できたとか?」

電話越しにりょうのニヤついた顔(ちょっと腹立つ感じ)が想像つく。

「もーそうじゃない!そんな話じゃないんだってぇ〜〜!」

「じゃ何どしたん?」

「異動。」

「は?」

「だから異動。本社に。」

「おぉ、スゲーじゃん。」

「なんでそんな普通なの!?」

「別にお前んとこ大きい会社だし、あるんじゃないの?千枝理、学科とかの成績も良かったしさ。んで、いつから?」

「あ、聞いてない。」

「は!?なんでぇ!?」

「なんかびっくりしすぎて忘れてた」

りょうはため息をつきながら、お前そこ大事じゃないの普通、とかそんなことをいブツブツ言うのが聞こえる。

「おーい、千枝理、聞いてるぅ?」

「あ、ごめん、聞いてる聞いてる」

「んでどうしたいの?」

「わかんない。」

「じゃ、やっちゃえ」

「え!?」

「考えてもわかんないなら、とりあえず受ければいいじゃん。やってみてダメなら考えな。どーせ惰性で美容師やってんだろ、今も。」

「なんでわかるの…」

「わかるに決まってんじゃん。ってか、本社への辞令なんて全員が受け取れるわけじゃないんだから、とりあえずやってみ!」


じゃ俺もう行かなきゃ、落ち着いたらまたメシいこーな!といってりょうは慌ただしく電話を切った。


とりあえずやってみればいいのか…りょうの一言になんか妙に力が抜けて、その日はすごく早く眠ってしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る