第15話 人事異動は突然に
「大事な話、ですか…?」
千枝理は、甘さと爽やかな酸味を味わいながら特に何も考えずにオウム返しに繰り返した。
「そう、大事な話。佐山さんにとっても、ウチの会社にとっても。」
怪訝な顔をした千枝理に気がついているだろうが、明石さんという人はそのまま続ける。
「佐山千枝理さんに、本社異動の打診です。」
「本社、ですか…!?」
動揺する千枝理の顔を覗き込みながら矢代さんがフォローする。
「もちろん、いきなりってことじゃなく、意向を聞いてからにはなるからね。」
「佐山さんも知っての通りさ、美容師ってすぐ辞めちゃうでしょ。給料も安いし、働く前と後のイメージが違ったりとかさ。それでずっと人が定着しないし、したと思ってもある程度育つと独立して、それで世間知らずな所があったり、見通しが甘くて失敗。結局辞めちゃう。それが嫌だったから美容師をフリーランスというより会社員として扱って彼らの雇用をも守りたいっていうこの会社が気に入って入った。
だけど、ずっと僕は考えてきたんだけど、そもそもの美容師になりたいってスタートで、アンマッチを防ぐべきなんじゃないかって。」
そこまで話すと、明石さんはフラペチーノを一口飲んだ。
「美容学校を…始めようかと思って。
社長にずっと打診していて、それが通った。物件も見つけて、抑えた。スターティングメンバーは、好きに選んでいいって許可もらって、矢代さんに相談したら、佐山さんのことを教えてもらったってワケ。」
おおおおおおおおう、何が起きている!?内心かなり驚きながら千枝理は明石さんが話していることを聞いている。
「佐山さん、僕と一緒に、辞めない美容師を育てる仕組みづくりをしませんか?」
ええええええええええええ〜〜〜〜なんか予想だにしない壮大さじゃないか…!!!??????
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