第12話 ヒントや宝?

その日は突然やって来た。


 いつもの様に出勤し、開店前に軽く掃除をし、ミーティング。

朝イチのばあちゃん達をさばき、幼稚園ママや主婦のカットやカラーをこなしていく。その前後で本社の人が来て、売上や在庫等のチェックをしていく。


 今日は、いつも来てる本社のお姉さんじゃなくって、ちょっと太っちょのおじさんも一緒だった。まぁ、たまにこういうこともある。取引先の人とか、ショッピングモールの関係者とか、お偉いさん風情ふぜいの人がお店の様子を見学に来るのだ。出店を考えている人とか、本社で何か商品を開発するとか、そういった時にお店の様子を参考にするらしい。


「現場を見るのが一番だからね、ヒントも宝もぜーんぶ現場に落ちてるんだから。」

といつもお姉さんは言う。ヒントとか宝とか言われても、毎日割と同じ様な感じの繰り返しにしか思えないからあまりピンと来ない。本当に他の人から見たら宝がある様に見えるんだろうか。


 退屈だけど穏やか。人と比べるとたまに虚しくなるけど、ぬるま湯って感じでこれはこれでありかも…なぁ。お姉さんの言う現場に千枝理が抱いている印象だ。

私の見ている現場と、お姉さんの見ている現場って違うのかな。もしかして気づいていないだけで、私だけ異次元に転生しているとか…?


 そんな荒唐無稽こうとうむけいなことを考えて、ちょっとニヤニヤしていると、一緒に来ていた太っちょのおじさんが話しかけてきた。


「ええと、あなたが佐山千枝理さん?」

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