第11話 平穏な日常

「多いね、元美容師。」

お見送りを終えた千枝理の横にいつの間にか本社の人が立っていた。


「そうですね…ああいう人がまた美容師に戻れるようなシステムがあればいいのに、っていつも思います。」


そう言った千枝理をジーッと凝視ぎょうしして、そうだよねぇ…と言いながら彼女は再び持っていた売上日報に目を通す。


 昼になり、お店が空いたので順番に休憩を取る。今日はおにぎりとカップにお湯を注ぐスープパスタだ。ささっと食べ、歯を磨いてから店に戻る。


 そうこうしているうちに、学校帰りの小学生や中学生のカットを何人かこなし、(一緒にお母さんが来る場合もある)夕方遅くになると、保育園ママとその子供たちが髪を切りに来る。もっと遅くなるとスーツや作業着姿のおじさんたちが来る。きっと仕事帰りなんだろう。タバコの匂いがしたり、なんとなく油の匂いがしたり、お昼に食べたのかニンニクの匂いがする人もいる。おじさんたちのカットが終われば、1日がほぼ終わる。


 そんなこんなで1日が終わっていく。そして、これが何年か続いている。

大きな喜びもなければ、大きな悲しみもない。キラキラしている感じはしないけど、平穏で平坦な日常。求めていた美容師のイメージとはちょっと違うから、夢を実現している友達とかに会ったりすると、たまに落ち込むときもある。でもまぁ、私にはこれでいいのかな、なんて思いながらやって来た。



だけど、予想もしない転機は、突然やって来た。

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