第10話 元美容師ママのつぶやき

 そんなことをぼんやり思いながら、朝イチに使ったカラー剤を調合するプラスチックのカラーカップを洗っていると、近くにあるに子供を通わせているママさんが来た。


 ここで働くまでは全然知らないし興味もなかったのだが、幼稚園ママと保育園ママというのは別の生き物らしい。どちらも自分の子供の事を話してくれることが多いのだが、どちらかと言うと幼稚園ママの方が何かを抱えている感じがする。でもその悩みを話してくれると言うわけではなく、薄く鬱々うつうつしたものを感じながらも子供の事を中心に世間話をして終わることが多い。

 保育園ママと言われる人たちは、以外にバリエーションがある。ひたすら寝てる人、早口で喋る人、スマホとにらめっこの人など色々だ。

 でも、どちらも共通しているのがほぼ全員の頭皮や肩や首はガチガチに凝っている。お母さんって大変なんだな、といつも思う。


 いつも来てくれるママさんのカラーとカットをし、綺麗にブローして、最後に軽くマッサージをする。髪にツヤが戻り、ふんわりする。シャンプーの匂いがしてくる時も好きだけど、この瞬間も結構好きだったりする。

スタイリングが終わった時にふとこう言われた。


「私もね、昔美容師だったのよ。スタイリストになったくらいに子供できて、それで辞めちゃったんだけどね。」


もうやらないんですか?と聞くと、ブランクもあるし、今さら雇ってくれるとこないでしょ、と笑いながら言っていた。千枝理は何も言えなくなって、曖昧に微笑んで返した。


美容師になって見て気がついたのだが、りょうの言ってた離職率9割は、仕事が嫌になって辞める人だけじゃない。環境が変わって、辞めたくないのに辞めなきゃいけない人も結構いる。こういう人が続けられればいいのに、と思う。


「ごめんね変な話して。千枝さん、また来るから!頑張ってね!」


 そのママさんは明るく言って帰っていった。やりたい人が続けられなくって、なんとなくやってる私が続けてる。なんか皮肉だよなぁ、と思いながら千枝理はありがとうございます、と言いながらお見送りをした。

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