第7話 葛藤

「親、ビックリしたっしょ。」

「うん。就職しないって言った時に、大学とか短大に行きたいのかって思われたから、美容師やるって言ったらもう…ね。」

「よく負けなかったね。結構反対されたでしょ。」

「うん、うちのお父さんさ、地元の市役所で働いてるの。毎日8時半から会社行って、だいたい6時に帰ってきて、なんて言うか…ザ・公務員って感じ。もうそんな風だからかなり衝撃だったみたいで。怒鳴り合いの喧嘩を何日もして、最終的にハンガーストライキ。」


「そこまでなったん!?」

いつも割とにこやかなりょうには珍しく、驚愕きょうがくの表情でこちらを見ている。

「うん、なった。でも…、完全勝利って感じじゃないんだよね。」

千枝理は苦笑いをしながら続ける。


「本当は、フューチャービューティとか気になってたの私。」

あぁ、ファッション留学に力入れてるよねあそこ、とりょうが言う。

「でも、美容師資格とりながら短大卒の学歴つくでしょ、ここって。それでここならいいってことになって」

「なんだよそれ、ハンガーストライキまでしたんだからもうひと頑張りすればよかったじゃん。」

「いや、美容師もノリで言っちゃったみたいなとこあるし、イマイチ強く出られないって言うか、自信が持てないっていうか…。もういいかな、ってなっちゃったの。ずっと願ってた夢でもないしなぁ、って。」

いや、せっかく飛び出したのにさ…と言いかけたりょうをさえぎり千枝理は言った。

「もう充分。なんか後ろめたくなっちゃったの。お父さん怒ってるし、お母さん泣いてるし。本当は信用金庫に行ったほうが良かったのかもしれない…。ここ来たらさ、みんな、美容師目指してすごい頑張ってるんだもん。なんか私、いていいのかなって…ずっと思ってたんだけど、誰にも言えなくって…」


言いながら千枝理の目に涙が盛り上がってくる。りょうは千枝理の震えている肩に手を回し、優しく髪を撫でてくれた。


「俺さ、千枝理のシャンプー、好きだよ。なんかタッチが優しいもん。」

りょうの優しい言葉に、千枝理はさらに泣きじゃくった。

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