第6話 初めての反抗

「でもさ、千枝理、なんで美容師だったん?」

「あぁ…。私、ちゃんと話してなかったっけ。」

うん、そういや聞いてない、と言ったりょうに対して、千枝理はポツポツと話し始めた。


「私、弟がいるの。大知たいちって言うんだけど、小さい時から、なんかすごくって。小学校の時も思いつきで、自転車で県境超えちゃったりとか、なんか破天荒って言うのか、予測不可能って言うのか…。タイちゃんは何するかわかんないから、お父さんもお母さんもいっつもハラハラしてたの。それで、私に対して言うのは、『千枝理は普通で良かった。』とか、『千枝理は変なことしないからいいわ』とか、ずっとそんな感じだった。」


りょうは、黙って目で続きを促す。

「それで、ずーっとそんな感じできたんだけどさ、高校卒業して、進路を決める時に、地元の信用金庫に就職の推薦があって…お父さんも、先生にも勧められたの。でも、でもさ…。」

そこまで話して、千枝理は一呼吸置く。


「私、一生このまま、親を安心させる、安心安全な感じでいるのかな、って思ったら、なんか、つまんないし、生きてる意味って何、みたいな…。それでね、たまたま美容院に髪の毛切りに行ったら、自分と同じくらいの歳の子が、ピンク色に髪染めて、横刈り上げてて、美容師目指して通信で学校通ってるとかって話してて、でもバイトしながらだから大変とか言ってて、なんか、私とは違うって言うか、大変そうだけどイキイキしてて、自由で楽しそうだなって…」


りょうは黙ってニコニコしながら聞いてくれている。

「それで、千枝理は美容師やろうってなったんだね。」

うん、と千枝理は小さく答えた。


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