第5話 離職率9割の衝撃
「でもさ、いいんじゃね。」
「え?」
「だって、千枝理、授業も、自主練のシャンプーとかもスゲェ頑張ってきたじゃん。」
「りょう…」
「俺は…俺はだよ。小さい頃から、女の子の格好をさせられることとか、違和感あって、だけど女の子の友達に混じって髪編んであげたりするのとかスゲー楽しくってさ、もう、ずーっと美容師なりたくって、なりたくって…。だから、学校入ったときは、ようやく始まったって思った。」
りょうは、いつもよりも、ゆっくりと話す。慎重に言葉を選んで私に気を遣ってくれているのがものすごく伝わる。
「だけどさ、俺みたいなやつ、スゲェ多いんだよ。美容師なりたくって、なりたくって学校来るヤツ。」
うん、と千枝理は小さく頷く。
「でもさ、5年後、10年後、俺みたいなヤツが何人残ってるか知ってる?」
「うーん、…でも、半分もいないよね、多分。」
「半分どころじゃない。美容師ってさ、離職率9割らしいよ。」
「えっ」
あまりの数字に素でビックリしてその後の言葉が出ない。
「だよね。俺も聞いたときにおんなじ反応だったもん。」
りょうはやや自嘲気味にクシャッと笑いながら続ける。
「仕事がきついのか、待遇の問題なのか、イメージと実際がかけ離れてるのか、魅力的な仕事じゃないのか、そもそも美容師目指すヤツに優秀な人間が少ないのか…。オレ、まだ学生だし、正直よくわかんない。だけど、俺みたいな感じで入ってきてるヤツが多くって、それでみんな辞めてっちゃうんだったら、千枝理みたいな入り方をするヤツも、アリなんじゃないかな、って思う。俺さ、美容師なって、店やって、人が辞めない店つくりたい思ってこの学校来たんだよね。」
人を大事にする経営者は、心が広くなくっちゃね、やっぱ。と照れながらりょうが付け加える。
りょうがそんなことを考えていたなんて、知らなかった。すごいなぁ。優しくフォローしてくれてるけど、本当に私、いいのかな。
ってか…9割辞めちゃうって…。こんないい加減な動機だし、私もすぐ辞めちゃうかもしれない…。
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