第4話 カミングアウト

「げぇっ!!マジかよ…お前」

「りょう、やっぱ引いてる…??」


 千枝理は、入学式の時に隣にいた青い髪の男の子、あおぎりょうとなんとなく仲良くなった。初めて彼を見かけた日には気がつかなかったけど、りょうは、生物学的には女の子で、今は、ホルモンをちょっとずつ注射して男性になっている途中(?)らしい。確かそんな感じで説明してくれたけど、正直よくわからなかったので微妙な反応に見えたらしい。りょうは普通に男の子だと思った千枝理はそんな世界もあるんだなぁと思い、その後即座にトイレはどうしているのか疑問に思い聞いてみた。

「まぁ、男用の個室だけど…ってか、そこ!?」と爆笑され、それがきっかけで割と一緒にいる様になったのだ。


 学校生活も忙しいながら楽しく過ぎて行き、あっという間に就職活動の時期になった。美容師の国家試験は、2月と3月にあるので、面接を受けたり内定をもらったりするのはまだ資格のない状態である。志望動機等を授業の中で整理していた時に、「そう言えばさ、千枝理ってなんで美容師なりたいの?」とりょうに聞かれてようやく話すことになったのだ。


「引いてはいないけどさ…いや、なんと言うか…」

「やっぱ引いてるじゃん」

「…うん。ごめん。だって、俺は美容師になりたくて、なりたくての側だもん」

「引け目感じてるんだよね、実際。全然自由になってないの。周りのみんながキラキラして見えて、自分とは違うって言うか…」

「千枝理…」


 一気にまくし立てた千枝理は、自分の秘密を言ってしまった居心地の悪さからなんとなくソワソワして、大して喉も渇いていないのに持っていたお茶をグッと飲む。そして、こういう時のりょうはズルい。心配そうに覗き込んでくるその顔は紛れもないイケメンで、一瞬ドキッとさせてくる。だけど、りょうがこの先本当の男の人になったとしても、スルッとその腕に飛び込めるかと言うとちょっと違う。


私にとってりょうは、男でも女でもなく、りょうなのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る