第3話 小さな嘘

「お父さん、良さそうじゃない。わからないけれどなんだか安心ね。」

と父の方を見てニコニコしている母。口を真一文字まいちもんじに結んで威厳を保とうとしているが、それなりに満足している様子の父。


 専門学校の入学式は、あまり親が一緒に来ないものだと思っていたが、この学校は積極的に親の参列を勧めていた。先生たちもスーツをビシッと着ていて美容師と言うよりはビジネススクールっぽい感じの雰囲気があったし、他の親御さんもいわゆる普通のお父さんとお母さんといった感じの人がほとんどであった。その感じを見て、一緒にきた千枝理の両親もなにやら安心した様だ。


 実際、学校入学にたどり着くまでに家庭内では結構な騒ぎになったのだ。

よくここまで頑張ったと自分でも思う。美容師になりたい、と思いつきで言ったら引っ込みがつかなくなったなんて絶対に言えない。


「千枝理、がんばんなさいよ。お母さん、あんたに髪切ってもらうの楽しみにしてるんだからね!」

と母が私の方を見ながらニッコリ笑う。その後に、お父さんの髪は…ちょっと無理かもねぇなんて冗談を言い、お父さんの肩をバシッと叩く。イテッと言いながらお父さんも半年ぶりに笑っている。「うん、頑張るね!」と答えながら心の中で千枝理は答える。



お母さん、ごめん。本当は美容師になりたかったわけじゃないの。



けれど、もう私の美容師への道は始まってしまった。

まぁ、いいか。明日からがんばろ。

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