☆ごった煮ショートショート集【第一倉庫】（ユーモア・ギャグコメディ・笑話）

異世界など

転生したら

転生したら異世界で歩く板チョコになっていた……どうするオレ〔全一話〕

　チートな人生を強く求めて命を絶ったオレは、気がつくと異世界にいた。

（やったぁ！　定番の異世界転生だ！　あの世の地獄に行くか、異世界に行くかの賭けだったけれど。ん？　やけに目前にある雑草がでかい？）

　見上げるほどの雑草と世界樹並みの大樹の根元に、オレは座っていた……小さな足が生えた『板チョコ』になって。

「なんじゃこりゃ？」

　いくらなんでも、チョコレートに転生したのは想定外だった──それもアニメのようなコミカルな足が生えた、ミルクチョコレートに。

「う～ん、チョコレートに転生してもなぁ……」

　オレが困惑していると、目前の草がガサゴソと左右に掻き分けられ。

　エルフの子供が顔を覗かせた。チョコレートに転生したオレから見たら、普通の妖精の子供でも巨人サイズだった。

　エルフの子供が言った。

「あっ、見つけた。おーい、みんなぁ……ここに、あの甘い食べ物が座っているよ！」

　仲間を呼んだエルフの子供は、オレに向かって手を伸ばす。咄嗟に身の危険を感じたオレは逃げ出した。

「あっ！　逃げた！　待てぇ！」

　その日からオレの異世界での、逃走生活がはじまった。

　この異世界には甘味が少ないらしく、エルフ族以外にもオレの体の甘味を狙う種族は多かった。

（冗談じゃない、食べられてたまるか！）

　オレは逃げて、逃げて、逃げまくった。

　逃げている間に、オレと同じように足が生えたチョコレートに転生した仲間と出会って。

　集団で生活するようになった。

　仲間たちの話しを総合すると、オレと同じように新しいチート人生を求めて自分から命を絶った者たちだった。

（オレたちが、歩くチョコレートに転生したのは……自分から命を絶った天罰なのか？　んなわけ、ねぇな）

　オレたちは捕食者から見つからないように、大樹の根元にぽっかり開いた穴の中に集まって生活をはじめた……捕食者に毎日ビクビクしながら。

　そんなある日、仲間内で事件が起きた。

　仲間の一人、ブラックチョコレートの男が、ホワイトチョコレートの女の子に。

　いつ捕食者が現れるかも知れないストレスから襲いかかる事件が発生した。

「一口、かじらせろホワイト！」

「きゃあぁぁ！」

　チョコレートは飲み食いを必要としない、まして仲間を食べる口も無い。

　咄嗟にミルクチョコレートのオレは、ブラックチョコレートに体当たりをしていた。

「やめろうぅ！　ブラック！」

　固いブラックチョコレートに、体当たりをしたのでオレの体の方が少し欠けた。

　ブラックチョコレートの男は、オレに舌打ちすると。

「チッ！　こんなはずの転生じゃなかった」

　そう呟いて、樹の穴から出ていった。

　オレがブラックチョコレートに体当たりをした事件から、オレとホワイトチョコレートの関係は急接近した。

　板チョコ同士で並んで会話をする時間が多くなった。

　ホワイトチョコレートもオレと同じように、転生して新たなチート人生を夢見て、ゲーム感覚で自分から命を絶ったらしい。

「まさか、転生してチョコレートになるなんて思ってもみなかった……失敗、失敗、てへっ」

「そうだね」

　オレは人間でいた時よりも、ホワイトチョコレートと一緒にいる時の方がリアな充実を感じていた。

　オレの初めての彼女にホワイトチョコレートはなった。

（異世界でスイーツな生活もいいかも）

　そんなコトを日々、思っていたオレたち歩くチョコレートの平穏は突然破られた。

　エルフの子供たちに、オレたちが潜んでいた樹の穴が発見された。

「巣を見っけ！」

　エルフの子供の手には、穴から出ていったブラックチョコレートが握られ。

　両足が力なく垂れた状態で、半分かじられていた──ブラックチョコレートは死んでいた。

　エルフの子供が仲間のエルフを呼ぶ。

「お──い、みんなココに巣があるよ」

　集まってきたエルフの子供たちに、次々と捕まり捕食されていく仲間たち。

　網で捕獲されて虫カゴに入れられたり、その場で貪り食べられる仲間たち。

　オレとホワイトチョコレートは必死に逃げて、岩の隙間に隠れた。

　ホワイトチョコレートは岩の隙間で震えていた。

「怖い……どうしてこんなコトに、あたしたちは、異世界生活をチートに楽しむはずだったのに」

　オレが色白の彼女を慰める言葉をかける前に、伸びてきたエルフの手がホワイトチョコレートの彼女を捕まえた。

「きゃあぁぁ！　助けて、助け……」

　ペキッ。

　砕けるホワイトチョコレート。

　ミルクチョコレートのオレには、どうするコトもできなかった。

　彼女の悲鳴とポリポリと食べられている音を背中で聞きながら、オレは彼女を見捨てて、その場から逃げ出した。

　気がつくと、かなり遠方の森の中にまでオレは逃げていた。

「生き残ってやる、こんな、ふざけた姿で死んでたまるか！」

　岩を背もたれにしたオレが休んでいると、雨がポツポツと降ってきた。

（これは、自分の命を転生するためだけに捨てた者への裁きなのか？　ここは地獄なのか？）

　いきなり頭上から女性の声が聞こえてきた。

「まだ、一匹クズが残っていたか……自分から命を絶って死んだくせに。生き残りたいだなんて滑稽だな」

　声が聞こえてきた方向を見ると、そこにオレを蔑んだ目で見下ろしている女神の姿があった。

　オレは直感で、そのオレ口調女神がオレたちをこんな姿に転生させた女神だとわかった。

　オレは女神に訊ねる。

「あんたか、オレたちを転生させたのは」

「やっぱり転生させる前の記憶が微かに残っていたか……おまえも、異世界に転生できると聞いた時は、他の奴らと同様に喜んでいたけれどな。どうだ、チョコレートに転生した気分は」

「ふざけるな!!　人間にもどせ!!」

　女神のオレを見下ろす視線が、さらに蔑みを増す。

「ふざけているのは、どっちだ……オレは自分から命を絶つ者を幇助（ほうじょ）もしなければ、救済もしない……ただ、見ているだけの女神だ」

　オレ女子女神の話しは続く。

「オレはいろいろなケースの自分から命を絶つ者を見てきた、生きたくても生きられなかった者もいた……その中には、追い詰められてその選択をしなければならなかった者や、あと一歩踏ん張ったり考え方を変えて自分から回避した者もいる……自分から与えられた命を絶つ選択をした者の本当の心中は、女神のオレでもわからない……だが、おまえたちみたいに異世界に転生したいという。

しょーもない理由だけで自分の命を粗末にする奴らを見ると」

　女神はクズを見下げるような目で、オレを指差す。

「ムカつく……転生した歩くチョコレートの姿で魂ごと溶けて消えろ」

　女神はさらに冷たい言葉を、オレに浴びせる。

「おまえ、貯金残したまま死んだよな……死ぬ人間に金銭なんて必要ないだろう。命を絶つなら未練残さずに全額、宝クジでも買って当選番号確認しないで潔く死ね！」

　それだけ言って、女神は消えた。女神がいなくなるとポツポツと雨が降ってきた。

　もうオレには立ち上がる力は残っていなかった。

　雨があがると、今度は枝葉の間から日差しがオレの体に当たりはじめた。

　空には虹も見えた……オレはチョコレートの体が溶けはじめているのに気づいた。

（とける……とけていく……いやだ、いやだぁ……虫や鳥に食われて消えるのはいやだぁ）

　溶けていくにつれて、オレの意識も薄れていく……チョコレートの甘い匂いに誘われて、虫が寄ってきてオレを食べはじめる。

　鳥も飛んできて、クチバシでオレをついばむ。

（とける……とける……消える………消える）

　歩くチョコレートに転生したオレは、異世界で二度目の死を迎えた。

～おわり～