第二十四話 2人の買い物

 女の子は買い物とかに付き合ってくれる男を好きになる傾向がある。


 えっ? マジ? それってただの荷物持ちとしか見られないんじゃないかな……俺は淡々と恋愛本に書いてることにツッコミを入れた。


 でも試してみる価値はあるよね。


 俺は姫宮の電話を待った。しばらくしたら、姫宮から電話がかかってきた。


 最近、姫宮は毎日夜に電話をくれる。他愛もない話をしたりしてるうちに1時間が過ぎてしまう。そしたら、お互いにおやすみと言って、電話を切る。


『もしもし?』


「はい」


『いつきくんって素直になったね』


「そんなことないと思うけど」


『そう? 私の勘違いかしら』


「そんなことより、俺らって一緒に買い物したことないよね」


 さりげなく俺は話を誘導する。


『そう言われてみれば確かにないわ』


「なにか買いたいものってない?」


『そうね、いつきくんが荷物持ってくれるなら買い物に行ってもいいかしら』


 やはり俺はただの荷物持ちか……でも、一緒に買い物して、さりげなくエスコートすれば、姫宮も惚れてくれるよな……


「いいよ」


『じゃ、明日一緒に買い物に行こう?』


「分かった!」


『なんだか嬉しいそうね』


「気のせいだよ」


 思わず照れ隠ししてしまった。姫宮が俺を好きになるまでは、俺は気持ちは秘密だ。


 おもちゃで雇い主でしかない俺が姫宮を好きなのを姫宮にバレたら、なんて言われるか分からない。


 高笑いしてチョロい男だねって蔑まれるかもしれない。だから、俺の気持ちは絶対に知られてはならない。


 それからまた1時間くらい会話して、俺は電話を切った。





 次の日、俺は念の為に母ちゃんにお小遣いを前借りした。


 姫宮はそんな人じゃないって思いつつも、どうしても拭えないなにかがあった。


 今までお小遣いを前借りしたことがないから、母ちゃんは少し心配な顔になったが、すぐにいつもの表情に戻った。


 それを見た結月はなぜか苦しそうにしていた。






 待ち合わせの場所で待っていると、姫宮はやってきた。


「待った?」


「いや、今来たところ」


「気を遣ってくれて嬉しいけど、もう30分も待ったよね」


「知ってるなら聞くなよ……」


 俺の位置はGPSで姫宮に筒抜けだから、30分待ってることを姫宮が知っててもおかしくない。


「では、行こうかしら」


「ええ」





 芽依に買い物行こうって誘われてもめんどくさいって理由でいつも断ってるから、実質女の子と買い物するのは初めて。


 ショーピングモールにみっちりと並ぶ店を見て、姫宮は子供のように小走りで駆け回った。


 俺は見失わないように必死について行く。


「この服綺麗だわ〜」


「そうだね」


「このぬいぐるみ可愛いわ〜」


「確かに」


 あれ、全然エスコート出来てなくない? こうなるって分かったら芽依の買い物に付き合うべきだったな。


 女の子の感想になんて答えたらいいか全く分からない。





 服屋に入ると、なぜかレディースじゃなくてメンズのところに姫宮が足を踏み入れた。


「この服いつきくんに似合いそうだわ〜」


「俺の服はいいよ」


「だめ。試着してきなさい」


 俺がそういうと、姫宮は少し不機嫌になった。これじゃ、本末転倒だから、俺は渋々と試着室に入った。


「やはり似合うね〜」


「そうかな」


 姫宮にジロジロと見られたらなんか恥ずかしくなってきた。


「次はズボンと下着だね」


「下着!?」


 思わず声を上げてしまった。まさか下着を選んでくれるつもりじゃないだろうな……


「ええ、いつきくんには私の選んだ下着履いて欲しいから」


 なに? 羞恥プレイなの? 俺に自分の選んだ下着を履かせて優越感に浸りたいのかな……でも、今日は姫宮を楽しませて好きになってもらうつもりだから、断れるはずがない……


「……選んでいいよ」


「ええ、そのつもりよ」


 頼む、普通のやつにしてくれ……


 どうやら、俺は天に見捨てられたようだ。姫宮は凄いイラストが書かれてあるパンツの前に止まった。


「これ着たらいつきくんはもう他の女の子と変なこと出来なくなるね〜」


「変なことって」


「えっちとか〜」


 いや、聞いた俺も悪かったけど、そんなに包み隠さずに言われると恥ずかしいってもんじゃないよ。


「別にしないよ」


「ふーん、どうかしら? とりあえずこういうパンツを10枚ほど買って、毎日履いてもらうわ〜 変なことしようとズボンを脱ごうものなら、女の子に笑われるわ〜」


「だからしないって」


「私は笑わないけどね〜」


「……」


 ズボン脱がせて見る気かよ……姫宮ならやりかねない…姫宮実際前に俺の部屋に潜入してそれらしいことしたし。


 姫宮は変なイラストのパンツを10枚ほどカゴに入れて、ズボンの売り場に移動した。


「そんなに買ってどうするの?」


「いつきくんには今持ってるパンツを全部捨ててもらうから、10枚くらいはまだ少ないわ〜」


「捨てなかったら?」


「いつきくんは大事なものを失うことになるわ〜」


 なに? ほんとに怖い。母ちゃん、今すぐ俺のパンツを全部捨ててくれ……





 1時間くらいしたら、俺はすっかり姫宮が選んだ服に着替えていた。


 俺が金を出そうとして、財布を取り出した瞬間、姫宮が俺の財布を奪って、中から10円玉を取り出して、そのまま財布を俺に返した。


「給料貰ったから、私が払うわ」


 姫宮は一体何を考えているのだろう……たった10円の給料で1万以上もする服が買えるわけがないじゃない……





 姫宮は俺の一新した服装を見て、満足そうな笑みを浮かべた。


 俺は10枚くらい変なイラストが書かれてあるパンツを入れてる袋を持って、これからこういうパンツを履かなきゃいけないのかと思い、ため息をはいた。


 一通り買い物が終わったみたいで、姫宮はショーピングモールを出ようとした。


「もう出るの? 姫宮ってまだ自分の欲しいもの買ってないじゃない?」


「何を言ってるのかしら? 欲しいものは全部買ったわ〜」


「もしかして、今日の買い物って……」


「いつきくんの服とパンツを買いに来たわ〜」


 やっぱり。彼女は最初からこれが目的だった。


「ありがとう……」


「なんか言ったかしら?」


「ううん、なんもないよ」


 俺はゆっくりと上着を脱いで、姫宮に着せた。


「もう夕方だから冷える」


「そう?」


「うん」


「じゃ、甘えさせてもらうわね」


 夕日の下で、俺は姫宮と手を繋いで歩いていた。

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