第三章
第二十一話 映画館での○○
俺は本屋に寄り、恋愛本コーナーからそれらしい本を三冊持って、レジで会計を済ました。
家に帰ると、俺は熱心にさっき買った恋愛本を読み始めた。
なるほど、映画館のような暗い場所でデートすると、吊り橋効果で好きになってもらえるのか……また、ホラー映画のほうが効果が表れやすく、さりげなく手を触れるとより一層ドキドキを相手に与えられると……
俺は決意した。このまま姫宮のおもちゃとして弄ばれ、飽きられた時に振られて高笑いをされるのなら、本気で姫宮を惚れさせて両想いになってやろうと。そしたら最悪の結末を避けるはずだ。いや、それどころか、好きな人に好きになってもらえるなら、これ以上の幸せはない。
そうと決まれば、俺は姫宮にRINEでメッセージを送った。
『明日、日曜日、一緒に映画を見に行きませんか』
なぜか自分から誘うと緊張してしまって、文面が敬語になってしまっている。
メッセージを送って、携帯を置いたら、ピコリンと返事が返ってきた。
早い……もしかして、姫宮って暇なのか?
メッセージを見てみると、目を疑った。
『いつきくんが誘ってくれるなんて珍しいわ~ なにかあったのかしら? 毎日有栖さんのお弁当を食べて、食あたりでもしたのかな~ なら、早く病院に行きなさい。入院したら毎日お見舞いに行くよ~ もしそうじゃなかったら、喜んでこの提案を受けるわ~』
すごい長文だ……この短時間でよくこんな長文が書けたな。
しかも、文章の後に猫が寝そべて鼻をほじっているスタンプが送られてきた。魔王なのに可愛いスタンプを使ってるなって考えたら少し和んできた。
オーケイするなら普通にオーケイで返信してくれたらいいのに、拒否られたのかなってひやひやさせられたじゃないか。
『じゃ、明日映画館でね』
そう返信して、俺は姫宮の返信を待っていた。でも返信は一向に来ない。
ピコリンと携帯が鳴って、素早くチェックしたら、はるとからだった。
『明日、本屋でお宝を探しに行かない?』
……こんなメッセージだし、親友だから、既読スルーでいいよな……
とりあえず、犬が吠えてるイラストの隣に「却下!」と書かれているスタンプを返して、俺はまた恋愛本を読みだした。
女の子の返信が遅い理由ついて、寝るまで調べていた……
次の日、映画館の前で待っていると、姫宮がやってきた。
俺はぽかりと目を開いて、姫宮を見つめて驚いた。彼女は今日、いつもより綺麗だ……
白いワンピースの上に、若干透けてるピンク色のカーディガンを羽織って、長い髪を星の形の髪留めでまとめて、肩の前に降ろしている。いつもはすっぴんなのに、今日は少し化粧したみたいで、元々白い肌がより輝いて、小さい唇を際立たせた。
「まさか、RINEの返事がなかったのは……」
「ええ、服装選びとか化粧の勉強とかで忙しかったわ〜」
こういうことだったのか! 念入りに準備してアイドルをも圧倒するような存在感で俺と一緒に歩いて、通行人に、「あの隣に歩いてる男って彼氏? まじ似合わないんだけど!」って言わせて優越感に浸るつもりなんだね!
いくらなんでも性格が悪すぎじゃないか……でも、惚れさせてしまえば、きっと俺に対して優しくなってくるはず……
なら、作戦は続行だ。
俺は2人のチケット代を払おうとしたとき、姫宮は何も言わずに自分の分の金をトレイに置いた。
そのなにげない行動が俺の心を揺さぶる。
俺が選んだのは今期人気のホラー映画だ。これを見たら、姫宮はビビって俺の手を掴んでくるはず。
20分近く、延々と流れるCMがやっと終わり、本編が始まった。
さすが人気のホラーだけあって、開場早々シアターは怖い雰囲気に包まれていた。
さすがに男子の俺でも気を抜いたらちびるくらいこの映画の出来が良かった。俺は極力ジュースを飲まずに、姫宮が怖くなって抱きついてくるのを待っていた。
あれ、かれこれ30分経ったのに、姫宮は一向に何もしてこない。
こうなったら、俺からしかけるしかない。
俺は左手をゆっくり移動させ、姫宮の手を握ろうとした。
だが、手が触れる直前に、姫宮は手を引いて、両手を胸の前で手のひらを交差させ拳を握った。
えっ、なんで? やはり俺に触れられるのはそんなに嫌なのか……少し落ち込んだが、俺は次の作戦を実行に移った。
恋愛本に書いてあった。異性にキスされると、相手のことを意識するようになると。なら、ここはなりふり構わずに強引にキスするしかない。
「ねえ、姫宮、俺のジュースも飲んでみない?」
「……」
反応がない、まるで
これじゃ、計画がパーじゃん……
俺がたそがれて、スクリーンに向き直った。もう映画自体を楽しむしかないな……
「ねえ、いつきくん、こわ……」
姫宮がこっちに向いてくれた! 今がチャンス!
俺は姫宮のてかてかとした唇に目掛けて、勢いよく自分の唇を重ねた。
「きゃー!!!」という悲鳴が映画館に響き渡った。
映画が終わり、みんなが続々退場していく。
まさかキスされるだけでそんなに嫌がるとは……やはり俺らは雇い主と雇われの彼女に過ぎないんだ……
「ねえ、いつきくん、なんでさっきキスしてくれたの?」
姫宮は席に座って、まだ帰ろうとしない。それに合わせて、俺も席に座ったままだった。正直足がすくんで動けない。
「びっくりさせてあげようとしただけだよ、気にしないで」
俺はさりげなく誤魔化した。作戦が失敗した今、せめて隠蔽工作はしないとね。
「そんなキスじゃ、嫌かも……」
何が起きたのかとっさに分からなかった。気づいたら、姫宮は俺の前に立って、少ししゃがんで、唇を俺の唇に重ねていた。
「だから、やり直し」
ほんとに魔王なんだよな。こっちが惚れさせようとしてるのに、いつの間にかこっちが惚れさせられた。今日はお前の勝ちでいいよ……
帰りに、俺は手を繋ごうとしたら、姫宮が腕を組んできた。
「まだ怖いから、少しこのままでいいかしら?」
「ああ、いいよ」
俺らはゆっくり歩いて、家路に着いたのだった。
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