第十九話 RPGでの代理戦争
「なあ、家に遊びに行っていい?」
「いつき、お前買ったんだろう! 最近発売した例のRPG」
はるととれんは俺が買った新作のRPG目当てで家に遊びに来ようとしている。
「買ったけど、結月は家にいるよ?」
「無視の方針で」
「同意」
なら大丈夫か、ていうか嫌な人に会いたくない気持ちより新作のゲームをやりたい気持ちが勝ったのはどうだろう……
「いつきくん、帰ろうか〜」
「いっき、帰ろう!」
「はるととれんが家に遊びに来るんだけど、一緒に帰っていい?」
「しかたないけどいいわ」
「はるとは嫌だけど、れんはいいよ」
芽依のやつ、はるとの気持ち知っててこんなこと言ってるのかな。
「やれやれ、芽依はツンデレだからな」
はるとは上手く芽依の言葉を流して、帰宅の準備に取り掛かった。
結月は俺らの会話を聞いてか、先に1人で帰ってしまった。
「早くやりたいな〜」
「そうだよ、なんだって10年に1つの注目のRPGらしいぜ」
「そういう謳い文句に騙されるなよ。ていうか自分たちで買ったらいいじゃん!」
「俺らは馬鹿だから買って貰えないんだよ!」
「そうだそうだ! お小遣いじゃ全然足りないし!」
威張って言うことか……
「そんなにゲームって面白いのかしら?」
「姫宮、お前、ゲームの良さ分からないのか……」
「そうだよ、ゲームは男のロマンだぜ!」
「2人とも成績が悪いのに、よくそんなことを口に出せたのね。ゲームばかりやっているから成績が悪くなったことに気づかないのかしら? ロマンとか言う前にまずは恋人を見つけなさい? それともゲームが恋人かしら〜」
魔王は久々に真価を発揮した。はるととれんはまるで主人公に追い払われたチンピラみたいに覚えてやがれと言わんばかりの顔をしている。
「なんか文句あるのかしら?」
「「ないです!」」
すっかり姫宮に従順になっているね。いつの間に調教されたのかな……それとも俺は今下僕の誕生を目にしたというのか。
「ただいま」
父ちゃんと母ちゃんはともかく、結月の返事もない。まだ帰ってきてないのかな。
「邪魔させてもらうぜ」
「邪魔しちゃうぜ」
はるととれん、この2人ほんとにノリいいよな。それとも馬鹿すぎてお邪魔しますを間違えたのかな……
「「お邪魔します〜」」
姫宮、芽依、偉いぞ! ちゃんと言えたね。パパ嬉しいよ……って、お前らを産んだ覚えはないぞ!
1人で勝手に脳内で盛り上がっていたら、みんなはもうさっさと俺の部屋に目掛けて移動を開始した。
「おい、部屋汚くない?」
「いつき、お前、俺らが来るというのに掃除しといてよ!」
「いや、今日いきなり来ただろうが」
「男の子の部屋ってこんなもんなんだね〜」
「そうだね、いっきの部屋の方がまだマシよ」
姫宮はまるで俺の部屋に入ったことがないような言い方をして、それに、芽依、お前はほかの男の部屋に入ったことがあるのか? 場合によって、パパ怒るぞ!
「じゃ、さっそくゲームやろうぜ!」
「おう!いつき早くスイッチ付けろよ!」
「お前ら……ここ俺ん家だぞ……」
俺は言われたままゲームを起動した。
なんかこのRPGは自由度が高いのが売りらしい 。
「ほう、種族まで設定できるんだ!」
「ペットをドラゴンにしようと」
2人はさっそく自分たちのキャラクターを作り始めた。
コントローラーが2つあるから、1回同時にプレイ出来るのは2人まで。
ゲームに興味がなさそうな姫宮と芽依までもが画面に釘付けになっている。
まあ、人気作だから仕方ないといったら仕方ないのかもしれないね。
「ちょっと貸しなさい!」
「「はい?」」
姫宮がいきなりコントローラーを奪った。
「ちょっと今いい所なのに……」
「そんな殺生な……」
「黙りなさい」
「「はい……」」
さすが下僕……もう親友やめようかな。いや、俺も姫宮のおもちゃだから人のこと言えないか。
「私もやる!」
「そう来ると思ったわ。 ほら、もう1つのコントローラー貸してあげるわ」
待って、貸すもなにも俺のコントローラーだけどね。
芽依はコントローラーを手に取り、キャラ設定を始めた。
何たることか。こういう設定って有り得るの?
芽依のキャラは巨乳のダークエルフで、ペットはこのRPGの神様。
姫宮のキャラは凛とした悪魔で、ペットは100人の人間の奴隷。
いくら何でも自由度高すぎだろう。
「有栖さん、勝負しないかしら?」
「いいよ! 負けたほうがアイス奢りな! それにいっきから身をひ……」
「2つ目は却下だわ」
「ううっ」
確かに、俺と付き合っているのは姫宮だし、2つ目の条件は姫宮に何の得もない。
いや、付き合っているって言えるのかな? 俺に雇われているだけのような気がしなくもない。
てか勝負ってどうやってするの? 協力するゲームなんだよ?
そして、長々とプロローグが流れ、ゲームが始まった。2人がパーティを組んで、ラスボスの魔王を倒していく感じ。
ていうか、魔王がすでにここにいるんだけどな。
2人は神様と100人の奴隷を連れて、森を探索した。シュールという感じを超えて、もはや言葉が出ない。
最初のモンスターはスライムか……ここはちゃんとRPGのテンプレを抑えてるね。
次の瞬間、俺は目を疑った。芽依のペットである神様は究極魔法をぶっ放って、スライムに命中した。
そして、姫宮の100人の奴隷が焦げカスになっているスライムを蹂躙した。
「うはは、私のほうが先に始末できたよ!」
「完全消滅させてないところからして、有栖さんはまだまだ甘いわね」
そういって、姫宮はコントローラーで100人の奴隷に命令して、スライムの焦げカスに火をつけさせた。スライムは完全消滅したのであった……
「負け惜しみはやめてよね?」
「負け惜しみじゃないわ〜 そういう油断は命取りになるわよ」
「もう、こうなったら……」
芽依は神様に命じて、姫宮に究極魔法を放させた。
スライムを木端微塵にしたおかげか、姫宮の奴隷たちは進化して、ゾンビ並の不死性とアサシン並のスピードを手に入れた。
神様の究極魔法を掻い潜り、100人の狂戦士は芽依のダークエルフに襲いかかった。このあとは猥褻の極みだった。
「「うおー」」
はるととれんは感心した声を発したが、俺からしたらこれはもはやゲームじゃない。
このゲーム捨てようかな……
「ううっ」
自分のキャラクターが陵辱されただけなのに、まるで芽依自身がそんなことにあったように、嗚咽を漏らした。
「アイス奢って貰おうかしら」
「分かったよ!」
夜10時になって、みんなはやっと解散した。
4人が帰った後に、しばらくして結月が帰ってきた。
「どこに行ってたの?」
「公園で少しぶらぶらしてた……」
「そうか」
「……」
結月は黙ったまま自分の部屋に戻っていった。
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