第2話 ダイイング・ストーリー

「被害者はうらやま市在住、四十五歳専業主婦の女性。後呂名塚怜ころなづかれさんです」

「まだ若いのに気の毒にな」

春日井は被害者の顔を眺めながら言った。

「そうですよね。心臓発作なんて……。ヒィィィ!

考えただけで、いっっ、息が止まりそうです!!」

「死ぬなよ。ややこしい」

春日井は川田に冷ややかな視線を送った。


『それにしても……、普通、心臓発作で苦しんだ後、こんな表情にはならないだろう』

「このガイシャ、なんだか幸せそうに微笑んでいますね……」

「そうだ。それが最大の違和感であり、この事件の謎を解く鍵だ。そしてガイシャ自身の通報による"褒め殺し殺人"の予告。これが意味するものが何なのか……」

「あっ警部。それに関しては先ほど鑑識より、被害者の通話履歴、スマホの閲覧履歴などの報告があり、何やら事件に関係すると思われる情報がありました!」

「川田! なぜそれを先に言わん!」

「すみません! あ! あの……」

「なんだ!」

「あの……ぅ」

「だからなんだ!!」

「その……お顔が近すぎて……」

そう言うと、川田は顔を真っ赤にほてらせた。春日井は苛立ちのあまり、川田とひたいがくっつきそうなまでに顔を近づけて凄みを利かせていたのだった。

「す、すまん」

春日井は一つ咳払いをして、もう一度被害者の遺体へと向き直る。

「殺される……か、ガイシャは何者かに脅迫を受けていたのか?」

「はい! ガイシャはインスタグラム愛用者であり、死の直前まで操作していたようです。それで、死亡時刻のわずか数分前に"ストーリー"の投稿を行なっていました」

「川田……」

「は、はい!」

「ストーリーとは何だ! わかるように説明しろ!」

「……(課長は、知らないか……)」

川田は自身のスマホを取り出し、ごそごそと操作を始めた。

「川田?」

「あ、はい。インスタグラムのストーリーというのは、画像や動画を瞬時にネットに掲載し、拡散できるものです……。文字を入れたりして、ってあの、課長?」

春日井は震えていた。

「なんということだ……。それはダイイングメッセージじゃないか!」

「え、……。ええーー!!」

川田は驚きのあまり素っ頓狂な声を上げた。

「貸せ! なんて書いてあるんだ!」

「はい!」

川田が見せた画面には、美味しそうに魚にがっつく猫と川田の自撮りが写っていた。それを見た春日井は静止してワナワナと震える。

「あっ間違えた。はっはい! えっと、こちらです!」

川田は自分のスマホを取り下げ、鑑識から提出された被害者の死の直前のストーリーの画面を春日井に見せた。

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