第8話
「ねぇカレン、私たち、一緒に住まない?その、毎日迎えに行くのも面倒くさいし、何だかんだ毎晩のように一緒にいるし、いっそのこと、さ」
ベッドの中でルナちゃんのその言葉を聞いて、わたしは言い知れない達成感をいだいた。あのルナちゃんと繋がれるだけじゃなくて、一緒に住めるまでになるなんて。でも、ここは焦らしてみよう。
「え、面倒くさいって、それだけ?」
「え、そ、その……」
ルナちゃんの余裕を持った表情が困惑に変わり、次第に真っ赤になる。大丈夫。あなたの素直な気持ちを聴かせて。
「ご、ごめん。もっとカレンと一緒に居たいから、カレンのことが大好きだから、一緒に住んでください!」
ふふ、ルナちゃん、とっても勇気出して言ったんだろうな。とってもかわいい。
「ありがとうルナちゃん。とっても嬉しいよ」
その言葉とともにルナちゃんを抱きしめてあげると、嬉しそうな顔をして抱きしめ返してくれる。髪を撫でると安心に包まれた笑顔になる。本当にかわいくて胸がキュンキュンしちゃう。
「えへへ……。ありがとう、カレン。5月の連休に引っ越しできるように、明日にでもお部屋見に行こう?」
「明日って、随分と早速だね」
「だって、少しでも早く一緒に住みたいんだもん。時間が勿体なくって」
「そうだね、良い部屋見つけようね」
ルナちゃんに口づけをすると口づけをし返してくれる。互いに求め合う。あぁ、幸せ……。思えばここまで長かった。
ねぇ、ルナちゃん。どうしてわたしがあの日アウトレットモールに居たんだと思う?わたし、会社で初めてルナちゃんを見たとき一瞬にして心奪われちゃったんだよ。小学生みたいな顔と体格だけでも私の好みど真ん中なのに、その達観したような、この世すべてに疲れたような冷めた性格も、本当は頼りがいがあるところも、子どもっぽくなくてギャップがあって魅力的。おまけに抱き心地良さそうな大きな胸。もう寝ても覚めてもルナちゃんのことしか考えられない。絶対ものにしたかった。
何とか会社で昼食を一緒に食べる仲にはなれたけど、もっとお近づきになりたかった。そう思ってたらルナちゃんが休憩室で雑誌を読んでて、何か共通の趣味のきっかけにならないかと後ろからこっそり覗いたんだ。投資の雑誌なんか読むんだなって思ってたらスケジュール帳が目に入って、ルナちゃんがあの日あそこに行くことが分かったんだよ。だから待ってたんだよ。
ねぇ、ルナちゃん。どうしてわたしの部屋に招待したとき、膝の上に座らせたんだと思う?どうして後ろから抱きしめてたんだと思う?ルナちゃんは自分をぬいぐるか妹みたいに扱われてるって思ったかも知れないけど、それは違うよ。女同士でくっつける子か、嫌がらないかをチェックしてたんだよ。ルナちゃんは恥ずかしがってはいたけど、全然嫌がらなかったね。真っ赤な顔したルナちゃんは本当にかわいかったよ。
なるべく一緒に居るようにして、スキンシップを重ねるようにして、絶対行けるって思ってたのに観覧車で突き飛ばされたのは本当に予想外だった。最初は何が起こったのか全然分からなかった。頭も身体も心も追いつかなかった。嫌われちゃったのかと思ったけど、ルナちゃん自身も何で突き飛ばしたのかわからない様子だったし、それでなくても諦める気なんてサラサラなかった。
ねぇ、ルナちゃん。どうしてあのとき部屋の鍵が開いてたんだと思う?突き飛ばされた次の日の朝は本当に体調が優れなかったけど、夜には回復していつもより元気なくらいだったんだよ。昼間ずっと眠ってたせいで目が冴えちゃって、どうやってルナちゃんに再アプローチしようか考えてたらいつの間にか朝になってて、結局徹夜しちゃってた。
ルナちゃんからのメッセージをもらって、徹夜の疲れがあるしもう一日休むと返そうと思ったとき、ふと思いついたんだ。少なくともルナちゃんからメッセージが来たってことは、完全にはわたしを拒んでいないということ。もしこのまま返信しなかったらどうなるんだろう、て。
何度も電話がかかってきて確信した。このまま出なければきっとルナちゃんはウチに押し掛けてくる。そうとなれば部屋に入れるように鍵を開けとこう。身だしなみを整えようと洗面台に行き、鏡に映ったボサボサ髪に濃い隈のついた酷い自分を見て、また思いついた。どうせならこのまま会った方が演出になるかなって。
作戦が固まって手持ち無沙汰になり、投資信託の損益を見たらものすごい含み損だった。驚いたしショックだったけど、それさえも利用してやることにした。
ドアチャイムが鳴ってカメラにルナちゃんが映ってたときは思わずガッツポーズしちゃった。だけど元気そうにしてたら全部台無しだし、ここは抑えて電気を消してベッドで傷心したようにうずくまって、ルナちゃんが入ってくるのをジッと待つことにしたんだ。
ねぇ、ルナちゃん、どうしてわたしはあのお邪魔虫にセクハラされたんだと思う?ハニートラップって聞いたこと無い?ルナちゃんはわたし以外には引っかかっちゃダメだよ。
ねぇルナちゃん、ねぇルナちゃん、ねぇルナちゃん……。
もうきっと、あなたはわたし無しでは生きられない。わたしもあなた無しの人生なんて考えられない。お金じゃ買えない、わたしの大切な「資産」。これからもよろしくね。
結城佳蓮の「資産」形成 マーチン @ma-chen
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