第8話 10月。進路相談がやってくる!

さて、木々の葉が色づく頃になってくると、中学校3年生には、進路相談の時期がやってまいります。義務教育では給食費等を除けば、無償でしたから、(まあ、日本人のモンスターペアレンツのように払わない人もいないわけではありませんでしたが)経済的な問題はそれほどでもありません。しかし、高校となると、政府からの補助金が出るようになったとはいえ、やはり私立高校に行くと、かなりの経費が入学の時点からかかります。ですから、ほとんどのラテン系の父兄は、子供に公立の高校への進学を望みます。

大抵のラテン系の父兄は(少なくとも私が関わった人達は、)子供たちに、日本の親たちと同じように、高校進学を希望しています。日本はあらゆる職業の求人に対し、「高卒」が最低基準となっています。日本人にとってもそうですが、とにかく公立だろうが私立だろうが、3年我慢して卒業していれば、世間では「普通」とみなされ、就職に応募できる範囲も結構ありますし、誰と結婚するにしても、高校まで出ていればそれほど大きな障害はないわけで。

これが中卒と言うと、よっぽどの伝統芸能に従事する以外は、職業選択の幅は非常に狭くなり、求人見ても、学歴不問はガソリンスタンドや、工場労働などに限られてしまうようです。

とある中学校の先生に、中学生の求人があるか聞いたら、この御時世で、まだ中卒を雇って下さるありがたい場所もあるようです。で、ある就職希望の中学生に、職を斡旋したら、それがラーメン屋の下働きだったそうで、それを聞いたその子は言いました。「え~何それ?先生、もっと、データ打ち込みとか、綺麗な仕事ないの?」先生は絶句。そういうデータ打ち込みなんて、それこそ高卒の子達、下手したら、短大出てそういう仕事を派遣などで探す人達がやるような事に思えます。まあ、就職斡旋してくれるところも、まさかその相手が定年するまでそこで働く思って求人出していないでしょうけれど、世間のそういう厳しさが、中学生なだけに分からないのでしょう。

で、ラテン系にありがちなのが、親が働いてるラテン系専門の派遣会社の人にそそのかされて(!?)中学出たら、既に通訳として働くつもり満々の子供達が少なからず、お約束のように出現する事。確かに親と派遣会社の人とのやり取りはできるんでしょう。小学校から日本の学校に行っていれば、日本人の子供と変わりないほど話したり聞いたりはできます。が、こういう子達も成績はさほど良くないのです。で、親に依頼されても、世間の情勢が理解できず、市役所から届く年金や税金関係書類、学校からのお便り、はたまた新聞もからっきし読めないので、難しい事は結局日本人でスペイン語を話す市役所の通訳なんかに頼らざるをえないのが現状なのです。ですから、お金を貰える通訳をやるなんて、夢の又夢です。通訳の仕事は本当に日々勉強して努力をして、下積み重ねて従事していくものなので、二つの言語が話せるだけでは到底不十分なのです。でもそれが悲しいかな、日本語話せる子供達本人と父兄にはなかなか理解できないようです。

で、そういうことを父兄達に説明して、とにかく日本の社会で生きていくなら、(通訳になりたいなら、余計に)高校を出て下さいとお願いし、父兄達も子供達に自分と同じ工場労働の道は歩ませたくないので、同意してくれるのですが、当の本人達にはやはり茨の道です。中学校の先生方に言われたように、「とにかくオール3の成績を取ってくれれば、公立高校に入れますから、頑張ってください。」と、親と子供にお願いします。でもオール3以上取れる子は本当に稀です。で、この時期は今までの彼らの成績を踏まえて、担任と父兄と本人に、彼らの希望と付き合わせての指導に入らなければなりません。これが、日本で受験した経験ある日本人の通訳には、受験事情が分かるだけに、本当に頭の痛い案件なのです。で、これが第一段階。12月になると、もはや嘘も言えない正念場になってきますが、何時の頃も、担任、父兄、通訳の心配をよそに、当事者の生徒達が、そろそろお尻に火がついて受験勉強していくクラスメートを見ても、全くその気にならないのです。本国なら成績悪ければ留年と言う厳しい制度がありますが、日本は成績悪くても、心太式に進級できるので、ここに至っても「誰かが何とかしてくれる」という意識から、全く抜け出すことができないのです。で、更にこの後、この「お受験」の為に泣いたり喚いたり、奇行に走ったりする輩が出てくるのです。

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