第7話

オレは一つ約3㎏あるコカトリスの卵を手に持つ。それをテーブルの角に向けて勢いよく振り落とした。


ガインッ。


もう一度勢いよく振り落とす。


ガインッ。ペキッ。


どうやらヒビが入ったようだ。コカトリスの卵はとても堅い。通常の剣士が思いっきり剣で切ろうとしても切れないだろう。それどころかヒビすら入らない。

名のある大剣の剣士が思いっきり大剣で叩きつけてやっとヒビが入るか入らないかということを聞いたことがある。

それほどまでにコカトリスの卵は堅い。

またヒビが入ってもそこから普通の卵のように殻を真っ二つに割るのも至難の業らしい。

ゆえにコカトリスの卵の殻は防具の材料になることが多い。


オレはヒビの入ったコカトリスの卵のヒビの部分に手をかけた。そうして、グッとヒビの部分を押し込む。


1㎝ほど指が中に入り込んだことを確認すると、コカトリスの卵をボールの中にいれ、それからさらに力を入れて、コカトリスの卵の殻を割る。

これがかなりの重労働だ。

しかし、とても美味しいプリンができるので、頑張るしかない。


ググッと力をいれていけば、ほどなくしてコカトリスの卵の殻が真っ二つに割れ、中の黄身と白身がボールの中に広がる。

オレは、ゆっくりとボールの中から殻の欠片を取り出していく。

破片をすべて取り除いたら、そこに砂糖とバッファモーのミルクを入れてかき混ぜる。


「あー、バッファモーのミルクも採ってくるんだったなぁ。これ一昨日搾ったミルクだった。まだ傷んではいないけど、風味が落ちるんだよなぁ。でも、作るっていっちゃったしな。今からミルクを採りに行ってたんじゃ、この割っちゃったコカトリスの卵の鮮度が落ちるし・・・。」


オレは失念していた。コカトリスの卵がたくさん手に入ったことに浮かれていたために、バッファモーのミルクを今日は採取していなかったことに気がつくのが遅れたのだ。


「・・・ま、いっか。コカトリスの卵はまだまだいっぱいあるし。今度作ればいいよね。うん。」


ちょっと風味は落ちてしまうけれども、まあいいだろう。風味が落ちたところで普通の卵とミルクで作ったプリンよりは美味しいことは間違いないんだし。

オレはそう納得してプリン作りを再開した。




★★★



「お待たせ~。プリンができたよ。」


オレはできあがったプリンをトリスとシラネ様の前にあるテーブルに置いた。

コカトリスの卵は大きいのでプリンもたくさんできあがっている。20個はできただろうか。

3人で食べるには少々多い量にはなるが、問題ないだろう。食べきれなかったら保存しておけばいいし。

幸い、ダンジョン内で手にいれた収納袋があるし。

この収納袋不思議なんだよなぁ。中にいれたものが、入れたままの状態で保管されるんだよ。

一週間前に入れたオムライスを取り出した時に、ホカホカ湯気が上がっている状態だったのには心底驚いたものだ。

流石、ダンジョン産の収納袋だと感心した覚えがある。


「待ってたわよ。美味しそうな匂いね。」


「うむ。」


シラネ様とトリスは椅子に座って待っていた。オレがプリンを持って行くと二人とも目を輝かせてプリンを見つめている。

オレは二人の目の前に木でできた匙を置いた。


「どうぞ、召し上がれ。」


オレが二人に向かってそう言うと二人ともプリンに手を伸ばした。

そうして、恐る恐る口に運ぶ。

オレは二人がプリンを口に入れる瞬間をドキドキしながら見守っている。

思えば師匠と弟弟子以外にオレが作った料理を食べさせたことがないことに気づく。

弟弟子たちも男ばっかりだし、女性に食べてもらうのはこれが初めてだ。

二人とも気に入ってくれるだろうか。いや、気に入らないはずがない。

だって最高級の素材を使っているんだもの。これで美味しくないと言われてしまったら、他のどの料理も美味しくないことになる。あの、王宮料理も美味しくないということだ。


「・・・っ!!」


「・・・ぉお!」


シラネ様とトリス様はそれぞれプリンを飲み込むとさらに目を輝かせた。

そうして、味の感想を言う前に、手に持っているプリンをたいらげ、次のプリンに手を伸ばしている。

どうやらお気に召してくれたらしい。

オレはその様子をニコニコと見守った。


「美味しかったぁ~~~~~っ!!」


「うむ。非常に美味であった。」


二人が言葉を発したのはテーブルに並べたプリンがなくなったときだった。

二人とも思った以上にプリンを食べてくれた。一人10個は食べたのではないだろうか。これは、作りがいがあると言うものだ。


「お粗末様でした。」


オレは二人が喜んでくれたことに嬉しくなり、笑顔でそう告げた。


「ねえ、リューニャ。そういえば、コカトリスの卵を割る道具なんてどうやって手にいれたのよ?コカトリスの卵を割るにはミスリル製の道具が必要だって聞いたわよ。そんな高い道具どうやって手にいれたの?」


プリンを食べ終わって落ち着いたのだろう。そうシラネ様が尋ねてきた。


あ、あれ?

コカトリスの卵を割るのにミスリル製の道具が必要なの?オレ、全然知らなかったんだけど。

うちにはミスリル製の道具を買うだけのお金はないから、プリンやオムレツを作った後に残ったコカトリスの殻と好感した普通の調理道具があるだけだ。


「えっと。ミスリル製じゃなきゃ割れないのか?」

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