第6話
「重い・・・。重いんだけど・・・。」
「ははっ。重いねぇ。でも、すごいねシラネ様。コカトリスの卵3つも持てるだなんて。」
「そういうあんたは4つ持ってるじゃない。よく持てたわね。」
「だって、コカトリスの卵は絶品だからね。」
オレ達はトリスが産んだコカトリスの卵をオレの住む家まで運んでいる最中だ。
一つ30㎝もあるコカトリスの卵は重さも重い。一つあたり3㎏はあるだろう。
シラネ様は背中に一つ背負い、さらに両手で一つずつコカトリスの卵を持っている。オレは、背中と両手さらにはお腹側に一つずつ卵をくくりつけている。
「絶品って言ったってねぇ。限度があるでしょ。こんなに大きいんだから一つあれば充分じゃないの?」
「いや・・・トリスもオレの家に来たいって言ってるしねぇ。それには卵をあの場所に置いておけないだろう?」
洞窟の奥深くに置かれたトリスの卵。トリスという守護者がいなければ、きっと他の冒険者が持って行ってしまうだろう。オレは別にいいんだけど、トリスは嫌がった。オレが使う分にはいいが、他の人間に使用されるのは絶対嫌だと。
「はあ。だからコカトリスなんて放っておけばよかったのに。」
「うーん。でも一緒にいれば定期的にコカトリスの卵をくれるって言うし・・・。魅力的じゃん?」
「一緒にいなくても、定期的に洞窟に会いに行けばいいんじゃないの?」
「はっ。それもそうだな。」
シラネ様の的確なツッコミにオレはハッとした。そうだよ。なにも、シラネ様と一緒に暮らさなくても、シラネ様が卵を産むタイミングで洞窟に行けばいいだけだったんだ。
「今頃気づいたのね。」
シラネ様はそう言って「はあ・・・。」と大きなため息をついた。
★★★
なんとかオレ達は13個あったコカトリスの卵を全てオレの家に運び込むことに成功した。
結構な重労働だったことをここに記しておく。きっと、冒険者だったらなんてことないのかもしれないけれども、オレは見習い料理人だからな。一気に13個も運ぶことはできないのだ。
「ふむ。ここがリューニャの家かえ?随分手狭なのじゃな。」
「そうね。コカトリスを一撃で気絶させられるのだから、もっといい家に住んでいるかと思ったわ。もう何回もコカトリスの卵を持ち帰っているのでしょう?」
トリスもシラネ様もオレがこんなに狭い家に住んでいるとは思っていなかったようで、オレの家を見て首を傾げている。
オレの家は一人暮らし用の借り家だ。
部屋だって二部屋しかない。1室は寝室に、残りの1室は採取したものを置いておく倉庫のような感じになっている。
「コカトリスの卵は何回か持ち帰ってきてるけど、すべて料理に使ってて売ってないからお金にはならないんだよ。」
「え?待って、作った料理を売ってるわけじゃないの?」
「もちろん。だって、オレ見習いだよ?見習いが作った料理にたとえ極上の素材が使われていたとしても買う気はしないでしょ。」
「いえ。でも、コカトリスの卵が使われると知ってたら・・・。いえ、でも冗談だと思う人の方が多いかしら。コカトリスの卵を料理に使うだなんて・・・。」
シラネ様はそう言って考えこんでしまった。
「そうだね。卵1つで豪遊しなければ一月生活するだけの資金にはなるからねぇ。見習い料理人の料理にそこまでの金額を出す人はいないでしょ?」
「うぅ。確かに・・・。コカトリスの卵を使った料理が一食いくらになるのかって考えると頭が痛くなるわ。」
「だから売れないんだよ。でも、師匠に食べさせたらこの家をただで貸してくれたんだ。」
「そ、そう。よかったわね。」
そうなのだ。コカトリスの卵で作った料理は時々師匠に味見してもらっている。
一人で食べきるのには多い量ができてしまうし、オレの料理の腕を認めてもらうために師匠には料理を渡しているのだ。
そのおかげでオレはこうして一軒家をただで師匠から借りることができている。それに、師匠はオレの料理が気に入っているらしく追い出すこともない。むしろ、世話を焼いてくれているように思える。
「ふむ。では、リューニャがこの家に住めているのは妾のおかげじゃな。」
トリスはそう言って満足気に微笑んだ。
トリスは顔が整っているから、そうやって笑うととても艶やかな花が咲いたように思える。周りの空気まで華やかになったような気がする。
「そうだね。トリスのお陰だね。卵をくれたお礼と運んでくれたお礼になるかわからないけど、せっかく卵がこんなに手に入ったんだから料理を振る舞わせてね。」
「え、ええ。コカトリスの卵で作ったプリンを食べてみたいと思っていたの・・・。でも、トリスはいいの?自分が産んだ卵を料理されて食べられてしまうって・・・。」
そう言ってシラネ様は視線を落とした。
シラネ様って、普段威張っているけどどこかお人よしなんだよな。
「無精卵じゃからのぉ。無駄にするのならば、リューニャに有効利用してもらった方が良いのじゃ。」
そう言ってトリスはニカッと笑った。
「じゃあ、二人のためにとびっきり美味しいプリンを作るから待っててね。」
オレはそう言ってなんの変哲もないキッチンに向かった。
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