第8話
オレがシラネ様に尋ねるとシラネ様は驚いたように目を瞠った。
「リューニャ、何を言っているの?あったり前じゃない。コカトリスの卵の殻は固いのよ。最低でもミスリル製の道具じゃないとヒビも入らないわよ。って!リューニャそんなことも知らないのに、どうやってコカトリスの卵を割ったのよ!!」
「お・・・おう。」
どうやらミスリル製の道具じゃないとコカトリスの卵にヒビすら入れられないようだ。
でも、大剣で思いっきり叩きつけたらヒビが入ったって聞いたことがあるんだけどなぁ。
「でも、大剣で叩きつけたら・・・。」
「あれは、ミスリル製の大剣よ!鉄や鋼じゃ太刀打ちできないわ。卵の殻にヒビが入る前に剣の方がポキッと折れて使いものにならなくなるわよ。それに、そのミスリル製の大剣も卵の殻にヒビが入るのと同時にヒビが入ったって聞いているわ。」
「そ、そうなんか・・・。」
コカトリスの卵っていろいろ規格外だったんだなということに今頃気がついた。
いや、でも待てよ。
そんなコカトリスの卵を打ち付けたテーブルはなんで無傷なんだろうか。不思議だ。あれってただの木のテーブルだったと思うんだが・・・。
ま、いっか。
深く考えても仕方ないしな。
「それで、どうやってコカトリスの卵を割ったのよ。教えなさいよ。」
「え・・・ええと・・・。いや、普通に卵を割るみたいにテーブルの角に打ち付けて割ったんだけど・・・。」
「はあっ!?」
「ほぉ。」
シラネ様が椅子から立ち上がってオレの方に身を乗り出してきた。トリスも興味津々にオレを見つめている。
「なにそれ信じらんないわ。ちょっと見せてみなさいよ。」
「えー。まあ、いいけど。本当に普通に割っただけなんだって。」
「普通に割ってコカトリスの卵が割れるわけないわよ!ここで割ってみなさい!」
シラネ様はものすごい剣幕だ。でも、綺麗な顔をしているなぁ。意思の強そうな目がキラキラと輝いていて綺麗だ。
「わかったって。じゃあ、コカトリスの卵を持ってくるからちょっと待っててよ。」
オレはそう言って、コカトリスの卵を一つ持ってきた。でも、卵は割ってしまえばそこからどんどん劣化していってしまう。
プリンはもう作ってしまったし、この卵は何にしようかなぁ。
でも、ま。それは後で考えるとして、今はシラネ様の言うとおりにしておくか。
オレは「見ててね。」とシラネ様とトリスに言うと、テーブルの角に思いっきりコカトリスの卵を打ち付けた。
むっ。割れない。
やっぱり一度では割れなかったか。仕方ない。もう一回だ。
そう思ってオレはもう一度コカトリスの卵を振りかぶった。そうして、思いっきりコカトリスの卵をテーブルの角に向かって叩きつける。
ペキッ。
よし。ヒビが入った。
オレはコカトリスの卵にヒビが入ったことを確認すると、二人にヒビの入ったコカトリスの卵を見せた。
「・・・うそ、でしょ?」
「ほほぉ。」
シラネ様は呆然とした様子でヒビの入ったコカトリスの卵を見つめている。その様子は信じられないと言っているようにも見える。
まあ、信じられるられないも見たとおりのまんまなんだけどね。
ヒビの入った卵をボールに開けるために、ヒビの入っている部分に指をかけ、そのまま力任せにコカトリスの卵を割る。
どろりとした白身と黄身がボールの中に広がる。
「あんた・・・。なに、その指。っていうか、腕。っていうか、その馬鹿力。」
「え?ヒビが入ってしまえば割るのは結構簡単だよ?」
なんだか、コカトリスの卵にヒビが入ったときよりも驚いているような気がする。
対してトリスは満足気な笑みを浮かべてオレを見ていた。
「うむうむ。さすがは妾の婿じゃ。よい力をしておるのぉ。」
いや。婿じゃないし。
オレまだ誰とも結婚する気もないし。
「あり得ない・・・。あり得なすぎるわ・・・。ちょっと、あんた来なさい!」
シラネ様はそう言うとオレの腕をむぎゅっと掴み、立ち上がった。
「え?どこに?」
オレはシラネ様の意図が読めずに目を白黒させた。
「ギルドよ!あんたのステータスを鑑定してもらうわよ!」
「え?ギルド?でも、この卵を料理しちゃわないと鮮度が悪くなって美味しい料理が作れなくなっちゃうからちょっと今日は・・・。」
もう卵割っちゃったし。せっかく美味しい料理を作れる素材が台無しになってしまうのはもったいない。
ジッと卵を見つめるオレ。
「はぁ・・・。わかったわよ。じゃあ、絶対明日行くわよ!いいわね!」
「まあ、明日ならいっか。でも、ギルドに行ってもオレは冒険者にはならないからね。オレは王宮料理人になるんだから。」
シラネ様は今日ギルドに行くことに関しては折れてくれたようだ。ただ、ギルドに行くことだけは決定事項らしい。明日、ギルドに行くと言われてしまった。
明日は特に用事はないし・・・。
オレ、仕事してるわけじゃないしなぁ。
料理人見習いって言っても見習いだから師匠の横に張り付いて雑用をしているだけしかできないし。
まあ、雑用してればその分お駄賃がもらえるんだけどね。だから、暇なら師匠のところに入り浸っているんだけど、毎日行かなきゃいけないってもんでもないし。絶対行かなきゃならないってものでもない。
だから、オレはギルドに行くことに関しては折れることにした。別にギルドに行ったからって王宮料理人になれないわけではないし。
冒険者にならなければ、だけど。
そこはシラネ様に釘を刺したから大丈夫だろう。
「わかったわよ。冒険者登録まではしなくてもいいわよ。でも、私はリューニャのステータスが知りたいのよ。コカトリスの卵を平気で割っておいてただの料理人見習いだってことはまずあり得ないわ。そこを知りたいのよ。」
「なら、行くよ。トリスはどうする?」
「妾はリューニャの側にいるのじゃ。ギルドというところは人が多いと聞くしのぉ。リューニャが他の雌に目をつけられたら大変じゃ。」
「そんな物好きいないと思うけど・・・。」
ギルドにはトリスも一緒に来るという。トリスが来ることにはちょっと不安だけど、ここに置いておいたら何をしでかすかわからないし。
万が一、オレがいない時にこの家に誰かきたら、と思うとゾッとする。
もしかしたらその誰かをトリスが攻撃するかもしれないからだ。通常の冒険者じゃトリスには敵わないからなぁ。
「オーケー。じゃあ、明日ね。約束よ。で?その卵で何を作るのかしら?食べるの手伝ってあげてもいいわよ。リューニャは料理人見習いっていうけど、素材は最高級だからとっても美味しいもの。」
シラネ様はそう言ってにっこりと微笑んだ。
夕飯をオレの家で食べていくことが決定した瞬間だった。
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