第4話



「・・・私も行くわ。あなたが途中で死んじゃうといけないし。後方から回復魔法で援助してあげるわ。」


シラネ様は美味しいプリンと聞いて気が変わったのか、オレの後をついてくると言う。

うーん。シラネ様は気配を消すのがあまり上手じゃないので、正直ついてきてもらっても足手まといにしかならないんだよなぁ。

オレは自分の身は自分で守れるけど、他の人まで守るだけの余裕はないし。


「じゃあ、10分経ってもオレが洞窟から出てこなかったら見に来てくれる?あ、でも危ないと思ったら逃げちゃっていいからね。」


シラネ様は変に正義感が強いのかオレを引き留めようとオレの腕をぎゅっと掴む。


「・・・10分だからね。1秒でも過ぎたら見に行くからね。」


「うん。ありがとう。シラネ様が心配しないようにすぐ帰ってくるからね。」


オレはシラネ様に微笑んで、洞窟の中に入っていく。

シラネ様の声援を受けて。


「し、心配なんてしてないんだからね!私はコカトリスのプリンが食べたいだけなんだからね!!」





☆☆☆




シラネ様が洞窟の中に入ってこないようにサクッとコカトリスの卵をとってこないとなぁ。

あの様子じゃ、10分経たないうちに洞窟の中に入ってきそうだし。

オレは色つきのコカトリスの卵があるであろう洞窟の最奥に向かって早足で進む。この間も気配を消すことは忘れない。

しばらく進むと、洞窟の奥に向かう色つきのコカトリスの姿が見えた。

どうやら先ほどのコカトリスのようだ。目が覚めて卵が心配になって見に行くらしい。

オレはコカトリスの後を気配を消しながらこっそりと追いかけていく。

すると、洞窟の奥に開けた空間があった。その真ん中には枯れ草が敷き詰められており、その枯れ草の上に直径30㎝はあるだろう卵が複数個置かれていた。

コカトリスは卵を目にすると、「クケーーーッ。」と悲しそうに一声鳴いて、手前にあった卵を嘴で思いっきりつついた。


「あっ・・・。」


オレはその光景に思わず声をあげてしまった。途端にコカトリスがオレに気づき、こちらを睨んできた。


やばい・・・。


オレは本能的に逃げだそうと身構える。コカトリスがオレに向かって攻撃してくると思ったからだ。

なんたって、コカトリスの産卵場所にオレはいるのだから。

しかし、いくら待ってもコカトリスは攻撃を仕掛けてこなかった。

それどころか、こちらを興味深そうに見つめている。


「あの・・・自分で産んだ卵、食べるのか?」


コカトリスに敵意がないようなので、オレは警戒を解いて問いかける。言葉が通じるとは思わないが、つい疑問が口をついて出てしまったのだ。


『さっきの人間じゃな。どうして、妾を気絶させておいてトドメをささなかったのじゃ?』


「うをっ!?」


脳内に直接低い声が響いてくる。内容から察するにこの声の持ち主は目の前にいるコカトリスだろう。コカトリスが人間と言葉を交わせるだなんて思ってもみなかった。


『妾はそなたに聞いておるのじゃ。なぜ答えぬ?』


コカトリスはそう言うと急に怒気を孕んだ声でオレを睨んできた。


ちょっ。このコカトリス気性が荒すぎるっ!!って魔物はみんな気性が荒いか。


「あ、や・・・。ちょっとビックリしちゃって・・・。トドメをささなかったのは、オレ血を見るのが苦手で・・・。それに、トドメを刺すだけの力がオレにはないから。それに・・・。」


オレは、そこで一度言葉を詰まらせた。ここから先はコカトリス相手に言って良いことなのか判断がつかなかったのだ。言ったら怒られるかもしれないし。


『それに、なんじゃ?』


でも、コカトリスのあまりの威圧感にオレは震え上がり、気づいたら本心を言ってしまっていた。


「それに、あんたを倒しちゃったらもう色つきのコカトリスの卵が手に入らなくなっちゃうじゃんっ!色つきのコカトリスはあんたしか知らないんだよ。他にどこにいるのか見当もつかないんだ。それなのにあんたを討伐しちゃったら卵が手に入らなくなってオレが困るんだよ。」


オレが一気にそこまで言うとコカトリスはポカーンと嘴を大きく開け放った。


『なんじゃ・・・それは?妾の卵が欲しかったのかえ?』


「そうなんだよ!ほしかったんだよ!」


『そうか・・・。そうなんじゃな。・・・よし!ここにある卵をそなたに全部やろう。これから産む卵もそなたに全部くれてやる。』


「・・・え?」


コカトリスの言うことにオレは間抜けにも聞き返してしまった。

だって、こいつオレに卵をくれるとか言ってるんだけど。オレの聞き間違いじゃないよな?

普通、コカトリスは自分の卵を大事にしているはずなんだが。そして、近づいた者には容赦なく攻撃して撃退するはずなんだが。

どうして、そんな大切な卵をオレにくれると言うのだろうか。

でも、このコカトリスは自分の卵を嘴でつついて割っていたようにも見えたし・・・。


『妾はそなたのことが気に入ったのじゃ。』


「はあ。でも、なぜ大切な卵を?」


『ああ。それは無精卵じゃ。大切にしてもヒナは産まれぬゆえ。残念じゃが妾の栄養としておったのじゃ。じゃが・・・なんともむなしくてのぉ。そなたが欲しがっているようじゃからくれてやるのじゃ。』


「へ?」


コカトリスは何でも無いことのように言うが、この卵が無精卵だって?そんなことがあるのか?

普通、コカトリスは夫婦で一緒にいるはずだ。でも、確かにこの洞窟ではこの色つきのコカトリス以外見たことがなかった。てっきり、日中はオスのコカトリスが食料を探しに行っているのかと思ったのだが・・・。

『妾は強いオス意外の子をもうける気はないゆえ。妾より弱いオスはいらぬのじゃ。』


「は、はあ。」


つまりこのコカトリスには番いがいないということか。珍しいこともあることだ。

まあ、こうしてオレと会話をしていること自体あり得ないことだとは思うが。


『そなたは妾を初めて気絶させることができた強いオスじゃ。ゆえに妾はそなたの子を産みたいと思う。』


「・・・へ?」


なんだか、今このコカトリス変なことを言わなかっただろうか。

オレの子が産みたい、だと?

なんだ、それは。

人間と魔物の間に子が産まれるだなんて聞いたことも見たこともないんだけど。


『ふむ。では、この姿の方がよいかな?』


コカトリスはそう言うと、3メートル近くある巨大な身体が小さくなっていった。そうして、そこに現れたのは20代後半くらいに見える赤毛の美女だった。


「え・・・。ぇええええええええっ!!?」

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