招き猫のロリババアにつきまとわれて天狗のバーで働くことになった俺は雪女の恋の相談に乗ったりラブエネルギーを集める天使に殺されかけたりしながら片想いの女の子にアタックするのかしないのか!?
第22話 お店に行ってみたいって憧れの乙女に言われてじゃあイベントするかってなったんだけど結局準備は俺が全部やらされて天狗はふらふら遊んでるんだ。
第22話 お店に行ってみたいって憧れの乙女に言われてじゃあイベントするかってなったんだけど結局準備は俺が全部やらされて天狗はふらふら遊んでるんだ。
☆
「というわけで、我々も藪坂青年の恋愛を応援することに決めたぞ」
かなりの量のお酒を飲んだ末、ベロベロになった座高計神が拳を突き上げた。
うん。なぜ、こうなったのか理解が追いつかないのだが。
「ひっく……。何を言っているぅ。君はもう僕の大切な友人だ! 社会の理不尽に打ちひしがれながらも、それでも腐らず、社会の荒波に立ち向かおうともがく君を、僕は応援すると先程約束したではないかぁ」
座高計神は赤ら顔で拳を握りしめた。
「あははー。熱くなってきたじゃーん。あちきも手伝うにょー。面白そうな事には便乗していくのが、あちきの性分なのさー」
傘神様も悪いノリになってきた。ソファに深く座り。ミニスカ浴衣でだらしなく足をバタバタさせて俺を見上げる。
「そもそも神というのは元来、お節介な人好きじゃ。こうなるような気はしておったがのー。お主も大変じゃのー」
カウンター席に陣取るタマさんは半眼で頬杖をつく。そんな冷めた目で見てないで助けてほしい。
「自業自得じゃ。ぺらぺらと自分の方から話したのではないか。色恋沙汰など語っては、きゃつらにとっては格好の餌食よ。まったく。迂闊じゃったな」
別に率先して話したかったわけではないよ。場の流れで、恋人はいるのか、という話になり、いないと言ったら天さんがニヤニヤしながら「候補はおるやんけ?」なんて言ってきたら、根掘り葉掘り聴かれるハメになっただけで、断じて自分から話したかった話ではないぞ。
「なーにを白々しく言ってるんだよ。その娘さんのことを話している時の君の瞳はまさしく恋する若者だったぞ。ふふ、この僕の目は誤魔化せないぞぅ」
座高計神は上半身を揺らしながら瞳を真っ赤に充血させている。もう、厄介極まりないなぁ。
「まごまごしてたら、他の人間に取られてしまうかもしれないぞ。ささ、はやく次のデートの約束を取った方がいい! 連絡を取ろう。今すぐ取ろう。愛を打ち明けよう!」
身を乗り出して座高計神が詰め寄ってくる。これはかなり面倒な絡みになってきた。傘神様に視線を送り助けを求めてみる。
「そもそも、部屋に泊めたもらったお礼はきちんとしたのかにょ? 何かしたかしてないかはともかく、そういうところはしっかりしたほうがポイント高いにょー」
そ、それは確かにそうだ。言われてみれば、何も連絡していない。女性の部屋に泊まった無礼をまずは詫びるのが紳士的だろう。さすが営業上手の傘神様。そういうところは素直に手本にしたほうがよい。
「そうですね、今します」
ポケットからスマホを取り出す。
すると、ラインの通知が入っている。三時間も前だ。差出人は優里ちゃんだった。
『昨日はライブ楽しかったです。ありがとうございました』というお礼と可愛らしい猫のスタンプと、『二日酔いとかになってないですか?』という心配と、そして最後に、
『今度、先輩が働いているお店行ってみたいです。来週あたり行ってみてもいいですか?』
こ、これは……どうしよう。スマホ片手に固まる。
だって、この店がこんな人外の溜まり場だなんて、優里ちゃんには見せられない。人間はお断りの店っぽいし、天さんが許してくれないだろう。けれど、断るにしても、どう誤魔化そうか。
「なんや、そんなん。呼んだらええやん」
いつの間にか背後に立っていた天さんが、ケロッとした顔で言った。
「え、でも……いいんですか? 人間のお客さんはお断りなんじゃ……?」
「別にそういうわけでもないで。大概の
そういうものなのか?
「それに、オレも篤の好きな子の顔、見てみたいしなぁー」
ニヒヒ、と天さんは白い歯を見せた。
「あっ! なら、金曜日はイベントにしないかにょ?」
そんなやりとりを見ていた傘神様がぴょんっと立ち上がった。
イベントとは?
「昔はよくやってたじゃんさー。音楽流してみんな呼んでパーティしてたじゃんさー」
「あー、確かにやっとったな。ライブとかやってな。懐かしいな」
「そうそう! 久しぶりにやればいいにょ。その日は、この店に来るお客さんは人間のフリをしなきゃいけないってイベントにしてさー。そういう仮装イベントみたいなのやりたいなって思ってたのさー」
「そういえば、蓋はよく『はろういん』なる祭りに参加したいと言っていたな」
和式便所神はピンときたようだ。
「聞いたことあるな。それは西洋のお盆みたいな祭りだったかな?」
「そうそうっ。なーんか、ここ最近盛り上がってるにょ。でも、あのイベントって、あちき達は出雲に行かなきゃいけない時期と被るじゃん。せっかくの祭り事なのに、会議の準備とか忙しくて参加したことないのさー。一度くらい仮装してパーティをしてみたいにょー」
そうか、神様はハロウィンの時期は出雲大社に集まって会議をするんだっけ。パリピの傘神様だから、本当は参加してみたいと思っているのだろうな。
「ハロウィンかぁ。いつの間にか大々的なイベントになってしもうたな」
そういえば、いつからかハロウィンに若者が繁華街に溢れるようになったな。俺みたいな人間には無縁のイベントだけど、街を汚したりする様が話題になっているのは知っている。
でも、最近はもう下火になりつつあるようだけど。
「ここだけの話だがな……。その件については、ハロウィンの神に原因があるのだ」
和式便所神が大きな体を縮ませ声を潜めた。ハロウィンにも神がいるのか。八百万の国と言っても海外発祥のイベントにも神がいるとは、もう無茶苦茶だな。
「ハロウィンの神がこの国で生まれたのは五十年ほど前だ。祭り神は我々のような物の神よりも、位が高い場合が多い。ハロウィンの神も例に漏れず、生まれた時から位が高かった。小さな商店街の祭などはすぐに経ち消えてしまう場合もあるが、ハロウィンの神は西洋生まれだからか意外と全国的に知られていて、地道ながら頑張っていた。そして、その努力が認められ、位の昇格が認められたのだが、一躍有名になった途端に増長してしまってな。神在月の会議にも出ぬようになって傍若無人に振る舞いをするようになってなぁ。他の神に煙たがれるようになり、各方面から横槍が入って、一気に下火になりつつあるのだ。自業自得とはいえ、少し可哀想ではあるが」
急激に盛り上がって急に冷め始めたハロウィンにそんな裏事情があったとは。
「そそ。あちきはあの子のこと、嫌いじゃなかったけどにょー。まー、そんなわけで、話を戻すけど、仮装イベントってことで天ちゃん。どよ? 人間のフリをするのが好きな妖も多いし、人間に仮装してみたいっていう神様も結構いるにょ。きっとお客さんたくさん来ると思うにょ。そしたら売り上げもアップしちゃうかもだにょー」
「うーん。せやな。面白そうやな。そうしよう。じゃ、金曜は仮装パーティや。篤、後輩ちゃんに是非おいでって伝えてや。なんかワクワクして来たな。ミカやザルフェルにも伝えなあかんなー」
「よーし、あちきDJするにょ」
「お、ええやん。じゃオレも久しぶりに歌でもうたおうかな。せや、ザルフェルにも歌わせよ」
こりゃ大ごとになってきた。仕入れも増やした方がいいよな。それにもう少し片付けてフロアを広くした方がいいかな?
イベントをするとなると、色々と考えなければいけないことがある。
俺が頭の中で色々と考えている横で、天さんは子供みたいに目を輝かせ「ギターの弦も張り替えなあかんなー」なんて呟いていた。
イベントは来週の金曜日に行うことに決まった。優里ちゃんにも連絡して、その日に遊びに来ることになった。
「よーし、篤。一緒にイベントの準備しような!」
天さんはニコニコ顔で言った。俺は半信半疑で頷いた。
どうせ、このヒトは頼りにならないだろうなぁ。結局、俺が諸々の準備をしなきゃいけないんだろうなと、盛り上がる皆の横で憂鬱になる自分がいた。
そして、やっぱり天さんはアテにならなかった。
イベントまでの一週間。天さんは営業時間中にもかかわらず、パーティの準備だとか言って、ふらふら出掛けちゃって店はほったらかしだった。
それどころか、神様連中も人間っぽい服を着たいと言い出して、俺を朝から買い物に付き合わせるし、店にはまた変な妖が来て色々面倒な話に巻き込まれかけたりして、もう朝から晩までフル稼働だった。
それこそ、会社員時代と同じか、それ以上の激務だった。
けれど、休まる暇もないほど、こき使われたのに、会社で感じるような疲労感はなかった。むしろ、学祭の準備で東奔西走していた時を思い出すような、心地よい疲れだった。
「あちきはいつもそうだにょ。ワクワクしない仕事なんか苦痛でしかないものさー」
DJ用に新しくレコードを買いたい、と言い始めた傘神様の買い物に付き合わされてる時、少し愚痴ると彼女はそう言って笑った。
「一生の大半が仕事なんだから、ワクワクしてたいにょ。藪坂っちもそうでしょ? 逆にワクワクしないから前の仕事は辞めたんだにょ?」
どうだろう。仕事でワクワクか。そんなこと考えたこともなかった。そんな余裕もなかったし。辛かったから辞めたんだけどな。
「辛いってのはワクワクしなかったってことじゃん? だから辞めたんだにょ。そう思っておいた方がいいにょ」
「うーん、そう言われると、そうかもしれないですけど」
「そうだにょ! 自分の能力が低かったから辞めちゃったとか、そんなふうに考える必要はないにょ。つまんねーから辞めてやったって唾吐いちゃうくらいの気持ちが藪坂っちには必要だにょ。無理矢理でも前向きに物事を捉えた方がいいにょ。辛い経験でも、それは素敵な人生を送るためには必要な良い経験だったって思うことが大切なのさー」
そうなのかな、負け惜しみのような気もするのだけど。
「そんなことはないにょ。自己肯定感低め男子め。はい、口に出してみるにょ。つまんないから辞めました。ほいっ」
「……つまんないから辞めました」
「もいっかい」
「つまんないから辞めました」
「んー。ま、オッケー!」
満足げに傘神様は頷いた。
言わされただけなのに、口に出したら、なぜか少し心が軽くなったような気がした。
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