第4話「旅の計画」

 それからしばらくし、前記したように風来坊になろうと思い立った。行き先は東京。風来坊なので定住はしない。かといって余りにも短いとただの旅行と変わらない。バイトでもなんでも大体三ヶ月したら飽きてくる。でも飽きてから先に見えるものがある。職場でいえば、誰々と誰々は本当は仲が悪いとか、あいつとあいつは昔ヤッてるとか、そういうことが見えてくる。そこの濁りに面白味があるような気がしたので、「飽きて、そのあと一ヶ月は濁りを味わう」と決め、滞在期間は四ヶ月にした。


『男はつらいよ』では、寅さんは時々柴又に戻ってくる。寅が戻ってくると、身近な人たちが、「寅さんが戻ってきた」と言う。風来坊とはそういうものだと思い、東京に行ったあとは、誰かが、「太郎さんが戻ってきた」と言ってくれることを期待し、一回地元に戻ることにした。そして次は北海道に行こうと考えていた。




 旅に出るのに、いくらかは手持ちが欲しかったので、それまでしていた映画館のバイトを辞めることにした。矛盾しているように思うかも知れないが、六三〇円という、当時の愛媛の最低賃金スレスレの時給で働いていた。映写技師募集という求人につられて働いた、伊達や酔狂でないとやっていられない仕事だった。金を貯めるなら、もう少し割の良い仕事に変えないとダメだと思った。いつも愛想良く接してくれていた、ヴィッキー・チャオとか菅野美穂に似た顔立ちのフロアスタッフが少し前に辞めていたので、映画館にはもはやなんの未練も無かった。


「辞める」と伝えるために、事務所に行くと、カワウソが眼鏡を掛けたような顔の社員は、私の、「ちょっとお話が――」というフレーズだけで察したらしく、

「リタイヤ?」と聞いてきた。時給六三〇円で、月に一三〇時間以上働くことは許されず、社員になる望みはほぼ無い。このバイトに、「ゴールはあるのか?」と問い返したい気持ちになった。

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