第15話 思考を巡らす

 社長の口から出たのはトンでもない言葉だった。

「僕も疑いたくは無いけどね。でもこういうことが分かるのって内部の人間しか居ないだろうし、ちょっと調べてみようかなぁ」

「でも、社長が調べているって分かったら今度は社長にも危害が及ぶかもしれないですよ?」

「大丈夫大丈夫。その時は上手く逃げ切る自信があるから平気さ。それに」

「それに?」

「こういうサスペンスの犯人探しってなんだか面白くない?」

 社長、凄くわくわくしていらっしゃるんですが、それは。

「社長?」

 おれは呆れた顔で社長を見つめる。

「そんなに見つめられちゃうと照れちゃうなぁー。とまぁ、冗談はここくらいにして、大事な社員を傷つけられたんだ、黙って見逃すわけが無いよ。ここからはてくテクTECの反撃と行こうじゃないか」

 この手紙を入り口に居る警察の人に届けてくるねーと社長は病室の出入り口へと向かう。

「社長ありがとうございます」

「先生の話によると、君の怪我は一週間くらいだそうだ。それまでゆっくりしてくれよー。警察のほうには僕から話をつけておくから、おだいじにねー」

 そう言って病室から出て行った。

「はぁ……」

 おれはため息を付きながら寝返りを打つ。どうやらあちこちを殴られた為か動くたびに痛みが走る。

 長谷川さんは政府側に工作員がいるって話をしていたけれども、まさか、こちら側にも工作員がいる可能性があるだなんて予想も出来なかったなぁ。

 一体誰なんだろうか? こんなことをしたのは。疑いたくも無いけれども、それっぽい人物を頭の中に数人ピックアップしていく。

 こんな仕事にも疲れてきたら、Sachiの稼動スピードも緩やかになって来たら誰かに引導を渡して、ゆっくり引きこもりたいなぁ。最近はデリバリーサービスやネット通販も便利になったし、自ら外へ出なくても、一生引きこもって暮らせるんだけどなぁ。

 嗚呼、我が引きこもり人生。など、意味の分からないことを考えていたらウトウトと睡魔が襲う。社長も帰ったし、ここは暫く眠っておこう。そう思っておれは眠りへと落ちた。


 ――Sachiの初期化という考えはソレっきり、闇へと葬られることとなった。


 ***


「さて、計画も順調に進んでいるようだ」

 真っ赤なワインが入れられたグラスを優雅に振りながら、男が言う。

「このプログラム一つでこの国の全てが変わる」

 男の目の前には一台のタブレット。其処にはSachiのアバターが映し出されていた。男は愛おしそうに、Sachiのアバターを指で撫でる。

「順次、進捗は順調でございます」

 男の傍にいた秘書は目の前のタブレットを取り払い、替わりに豪勢なフィレステーキが盛られた皿を置く。

「このプログラムに次期総理大臣として貴方様を選ばせるようにさせます。そうすれば、貴方様が次の国の長になる。私達の夢は間近でございます」

「この計画の障害になるようなモノはもう居ないんだな」

「はい、暫くは病院から出られないでしょう」

「そうか、ははっ」

 男は大層嬉しそうに、左手でフォークを握ると勢いよく振り下ろし、肉へと突き立てる。

 刺さった肉からは肉汁が流れ出し、まるで血を流しているように見えた。

「さぁ、Sachiよ。命令に従って、私の名前を呼ぶのだ。そうすれば、私達の栄光がここから生まれる。強者が支配し、弱者が地をのさばる素晴らしい世界が」

 男は高笑いをしながら何度も何度も何度も肉にフォークを突き立てるのであった。

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