第14話 襲撃

 気付いたら、其処は知らない天井だった。


 比喩ではなく、マジで知らない天井だ。

 目を開けたおれはしばらく真っ白い天井をボーっと眺めた後、違和感があってハッと飛び起きる。

「ここはどこだ!」

 が、その刹那、頭にも体にも痛みが走って、うっとうめき声を上げながら倒れこむ。その時の衝撃でまた痛みが走った。

「あっ。結城君、目を覚ましたんだね。良かった」

 おれのそんな様子を見て、社長が駆けつける。

「大丈夫かい? 痛みはないかい?」

「全身痛いです」

 プルプルと悶絶しながら社長の問いに答える。冗談でも何でもなく、マジであちらこちらが痛い。

「だろうね」

「社長、ここは?」

「ここは総合病院だよ。君は家まで目前というところで襲われて、ここへ運ばれたんだ。幸い、骨なんかは折れていなくて、打撲と擦過傷だけだって」

「おれが……襲われた?」

 ビックリして起き上がろうとすると、また痛みが走って表情が歪む。社長は無理しないでとゆっくりおれをベッドへと寝かせる。

「メンテナンスの後に会社に走って戻ってきたのは僕が見ていたから知っているけど、そのあと、自分に何が起こったのか覚えていないかい?」

「内閣府から帰った後……」

 おれは寝転がりながらその日のことを思い出す。


 たしか、長谷川さんに例の怪文書の件について聞いて、とんでもないモノに狙われていると思ったおれは、急いで帰る準備をしてダッシュで内閣府を出た。

 で、あんなことを聞かされたもんだから怖くて後ろも振り返らずに前だけを向いて走って、半分泣きながら帰社して、お泊り部屋で息切れしながら暫く座り込んだんだっけ。

 きっと、相手方もおれはこの会社に住んでいると思っているだろうから、今日襲撃するなら夜にやって来そうだなと思って、皆が定時で帰るところを見計らって、溶け込むように帰って、辺りを見回してみても怪しい奴は誰も見えなかったし、これは巻くのに成功したかなぁー帰ってちょっとSachiの今後について考えないとって家の前に辿り着いた後、あと……、何か背中にビリって衝撃が走って……、


 その後の記憶が無い。


「何か背中に衝撃が走ってから記憶が無いです」

 おれの回答に、社長がふむ……と言葉を漏らす。

「結城君が倒れているのを近所の人が見つけてね、そのときにはあちらこちら傷だらけだったんだよ。それで、病院に救急搬送されたわけだけれども、結城君の言っていることが本当であるなら、スタンガンみたいな電気が走る凶器を使って気絶させてから袋叩きにあったみたいだねぇ。警察にも調べて貰っているけど、何か思い当たるところはあるのかな?」

 おれはぐっと布団のシーツを握る。社長に例の怪文書のことを言ってもいいんだろうか、迷う。話してしまったことによって、会社全体が巻き込まれるという恐れもあった。

 でも、おれのことを襲ったのは恐らくこの怪文書を出した奴らだ。

「……おれのカバンの中におれ宛の一通の手紙が入っていませんでした?」

 社長は、手紙? と首をかしげながら、おれのカバンの中を探って、一通の封筒を取り出した。

「これかい?」

「それです。この間、おれがご飯食べに外に出ていて戻ってきたら置かれていた手紙で、内容はジャマをするなって書いてありました」

 そして、差出人について聞いた話を社長にも共有する。社長はおれの話を聞いて、始終驚きっぱなしだった。

「そんなことに結城君が巻き込まれていたなんて全く知らなかったよ。社長失格だ」

 社長は申し訳なさなのか、おれに向かって深々と頭を下げた。

「社長が悪いわけじゃないんで!」

「他のプロジェクトメンバーにはこんな手紙は来ていないんだね」

「全員に話を聞いたわけではないですが、話題に上がってないから、恐らく、Sachiのプロジェクトリーダーであるおれのみに送られてきたんだと思います」

「そうか……、この手紙を警察のほうに渡しても構わないかな?」

「おれと社長とあと内閣府の長谷川さんの指紋がべっとり付いてそうですけど、大丈夫ですよ」

「そう言って、渡しておくよ」

 社長はそう言ってあの怪文書をスーツの内ポケットへとしまいこんだ。

「そのRONEって団体は色んなところに工作員を派遣しているって話なんだよね?」

 長谷川さん曰く、RONEは工作員を色んな会社に潜り込ませて機密情報を取り出すスパイや妨害行為を行っているという。

「確かに、そんな事言ってました」

「結城君不思議だと思わない? 君は会社に泊まったり家に帰ったりと出勤形態が特殊だ。それなのに、家に帰ろうとした日に会社近くじゃなくてわざわざ結城君の自宅前で襲撃された」

「あ」

 社長の一言にはっとする。

 そうだ、襲うなら姿を見せた会社近くにすればいいのに、ご丁寧におれの家の前で襲ったんだ。いつ戻ってくるか分からないおれを。ずっと見張っているならおれだって気付くから逃げられたはず。それなのに襲撃された。

「まさか」

「疑いたくは無いけど、僕の会社でもその工作員が入り込んでいる可能性は大いにあるね」

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