第9話 ハカル
突然だが、世界には陰と陽の相対する性質が存在する。
それはヒトの性格にも言える事だとおれは思っている。おれの性格はジメジメしている陰気なキャラ、通称【陰キャ】。
そして……
【陽キャ】
「げっ。珍しいヤツからかかって来た」
ある日いつも通りお家リモートぬくぬく生活を送っているおれのスマホに【陽キャ】と着信画面が表示されていた。
着信に表示されている【陽キャ】とは、同じ大学のゼミ仲間である
一方の本人は全く陽キャであることを否定しているけれども、
おれが思うに、大学デビューで髪染めているヤツは全員陽キャだからな!
そんな心のツッコミは置いておいて、おれはその【陽キャ】である如月からの電話に出ることにした。
「もしもし、如月か」
『電話に出るのが遅かったな結城』
「ちょっとお前からの電話っていうのが珍しかったから驚いていただけだよ。そっちは元気にしているのか?」
如月は大学卒業した後、先輩の紹介かなんかで地元のラジオ局に勤めていたハズだ。最初の頃はちょくちょく連絡を取り合っていたけれども、最近は滅多に連絡を送りあうことはしなくなった。
『こっちはちょっとしたヤボ用で今海外にいる。まぁ、元気にやってる』
如月は面倒くさそうな声で答えた。
「如月にしてはアクティブだな」
コイツもおれと一緒で出不精な性格をしていて、陽キャと言われていたがおれと二人でゼミ室に引きこもるというか立てこもる間柄だった。
そんなヤツが国外を出ているなんてにわかには信じられない。
『めんどくさい仕事があってな、まぁ、俺の話はいいんだ。そっちは今とんでもないものが始まったらしいな。こっちでも話題だぞ』
とんでもないもの?
「Sachiのことか?」
『それだ。単刀直入に訊くが……』
『あれは結城、お前が作っただろ?』
如月の言葉に背筋が凍る。Sachiのプログラムを作った会社は公表されていないし、ましてやおれは誰もこのことについて言っていない。
「どうしておれだと思ったんだ?」
『あー、暇つぶしにハッキングしてたらSachiのソースコードと受注企画書を見つけたんだ。大学時代に結城が良く作ってた人工知能とコードの手癖が似ていたし、会社もお前が入社しているものだったから。お前だろうなと』
「本当にスナック感覚でハッキングするのはお前の悪い癖だよな」
『お褒めに預かり光栄だよ』
如月は偉そうな声で答える。コイツのこういうところが若干ムカつく。
「はいはい、おれが作りましたよ。誰にも言うなよ? 一応機密事項なんだから」
『分かっている。結城の方はどうなんだ?』
「こっちはそのSachiのメンテナンスと機器の講習に大忙しだよ」
お偉い様方は、口は達者だとしても、機械を動かせる技術には疎い。
だから毎度動かなくなるたびに現地やリモートで教えるこちらの身にもなって欲しい。
『確かに年寄りは機械音痴が多いものな。大変だな』
「はぁー、早く楽に引きこもり生活を送りたい」
『それなら、自動化するというかSachi自身に自己修復プログラムを追加しておけばよかったろ? お前は大学時代人工知能に感情とかつけるプログラムも遊びで作ってたんだから、そんなプログラムくらい朝飯前だろ?』
「たしかに人工知能に感情をつけるプログラム作ったことあるけれどもめんどくさい」
如月の提案をおれは即却下する。
『何故だ?』
「自己修復プログラムで万が一バグが蓄積していったらそのバグを取るのも骨が折れる。もしかしたら直せない可能性だってある。それに……」
『それに?』
「……如月、お前なら言葉の意味が分かるだろ?」
電話先の如月は暫しの沈黙の後、そうだなと答えた。
『おっと、こちらも仕事が入ったようだから切るぞ。何かあったらまた連絡してくれ』
如月はそういうと一方的に電話を切った。
一方的に電話を掛けてきたと思ったら一方的に切りやがったなコイツ。まぁ恐らくは電話掛ける機会はそうそうないだろうと思い、スマホを置こうとすると、再び電話が鳴った。
また、如月がかけてきたのだろうかと画面を見ると、画面には【田中】の二文字。
「もしもし?」
『先輩―! 助けてください!!』
田中が泣きそうな声で電話を掛けてきた。犬にでも襲われたんだろう。おれは知らんぞ?
「犬に襲われているなら、俺は知らないぞ」
『犬じゃないですって! ちょっと先輩のSachiのプログラムコードを見せて欲しいんすよ』
「どうしてだ?」
プロジェクトメンバーの皆がメンテナンスしやすいように、別段コードを見なくても作業が出来るようになっている。だからプログラムを見る必要はないはずなんだ。
『ちょっと、興味本位というか? 勉強したいんすよー! お願いするっす! み!せ!て!』
電話先でギャーギャーといい始めるので、おれは受話器を遠ざける。断ると更に煩くなりそうだ。
「わかったから、勝手に変なところを見ないのであればおれのデスクところから勝手にみてくれよ」
まぁ、見られて欲しくないものは全てプロテクトをかけているから見られないんだけれども。
『わーい、さすが先輩っす! ありがとうございますー』
そう言って、これもまた電話が切れた。
はぁ……なんだか、今日はいろいろと電話がかかる日だな。おれは疲労で床へと寝転がる。
そんな俺が寝転がっている中、色々な思惑が動き始めているのを知ってしまうのはこれからもっと先の話である。
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