第4話 ジェットコースター出社

 朝9時。おれの家の呼び鈴か景気良く鳴り響く。

 予告通り、社長のお出ましだった。

「結城君。予告通り迎えに来たよー」

 扉越しに楽しそうな声で呼び鈴を連打する社長。ノリは全く持って小学生そのものである。

「はいはい。今出るんでちょっと待っててください」

 上着を着て扉を開けると、ツンと冷える寒空の中、紺色のライダースジャケット姿の社長は満面の笑みでおはようと挨拶をする。

「いやぁー、リモート申請中にごめんね。これだけはやっぱり会社でやらないと締まらないなーって思ったからさ」

「本当に行かないとダメですか? リーダーはおれじゃなくて他の人でもいいような気がするんですよね。山道さんとか件(くだり)さんとか結構プロジェクトリーダーやってますし、適任じゃないですか」

「もう、君は本当に引きこもり始めたら出不精になってしまうね。それにその二人は別件のプロジェクトで大忙しだし、そろそろ結城君もプロジェクトリーダーになっておく時期にきたと僕は思うよ」

「う゛っ」

 社長の全うな言葉におれはぐうの音も出ない。

「分かりました、出かける準備をするのでちょっと待ってくださいね」

「あぁ、いいさ。あと、そんな薄着じゃ寒いと思うからちゃんと厚着しなよ?」

「これで薄着ですか?」

「僕、あれで来ているから」

 社長が後方を手で指差すと、其処には凄く大きいバイクが止めてあった。


 ……アレに乗れってか?


「そんな薄着だとこんな寒空では凍えちゃうぞ★」

「……はい、準備します」

 なんかもう色々と諦めが付いたおれはマフラーをこれでもかとぐるぐる巻きにし、コートを着込んで家を出た。社長が乗っているバイクの後ろにどっこいしょと飛び乗った。

「さて、しっかり僕に捕まってねー。僕の運転は荒いから」

 ヘルメットを渡す際に突如意味深発言を言い出す社長。


 ソウイウノハ ノルマエニ イッテクダサイ ココロノ ジュンビガ デキテマセン。


「社長、そういうのは……」

「いっくよー」

 おれの発言は言い終わる前に無視をされた。

「あ、まっ、ギャーーーーー!」

 社長の急発進にまるで遊園地の絶叫マシンのような感覚を覚えて、おれは全力で絶叫し始めた。

 おれは無事に会社に辿り着けるのだろうか?


 やっぱり! お外怖い! 家に戻して!


 そんなおれの儚い願いは届くことはなく、無慈悲にも会社へと連れて行かれるのであった。


 ***


 てくテクTEC。


「いやぁー。久々の気分転換のドライブって感じだったから楽しかったよ」

 テンション高く会社へと入る社長に対して、

「そうっすか……。それは大変良かったっすね」

 一方、声がカスカスで真っ白になりながら出社するおれ。

 少々運転が荒いってだけでは終わらなかった。あれが少々で済むなら大概が安全運転のレベルだ。来る途中ずっと叫んでいたので、おれはツッコむ余力もなければ、声に覇気もない。

「また機会があれば乗せてあげるからねー」

「いや、しばらくはいいっす……」

 暫くというか、二度とごめんです!

「さて会社にも着いたことだし、プロジェクトの発足式でも始めようか」


 会議室に集められたのは、おれ・佐上・姫野・真白・飯田の五名。しかし、先ほど社長から貰った会議資料にはプロジェクトは全員で六名と明記されていた。

「……一人足りない?」

 辺りを見回すが、もう一人の姿は無い。まさか、逃げ出した?

 すると、

「誰か、助けてくださいー」

 会議室の外で誰かが助けを求める声が聞こえた。

 プロジェクトメンバー全員で会議室を出て、声をする方へと向かうと、其処は社長室。

 おれが扉をあけると其処には、


 大型犬に襲われている野郎の姿があった。


「田中、何やってるんだ?」

 会社で一番の若手である、田中孝哉がてくテクTECの看板犬であるチャウチャウ犬の『てっくん』に押し倒されていたのである。

「だって、社長室に入ったらてっくんにいきなり飛びつかれて……俺は犬が苦手なんです! 誰か取って下さい!」

 てっくんは尻尾をぶんぶん振り回しながら田中のことを押し倒しているので、どうやら遊んで欲しいみたいなのだが、田中が半泣きで懇願するので、仕方なく皆でてっくんを引き離す。てっくんは遊んでくれないことが分かるとしょんぼりした顔で自分の家へと戻っていった。

「これでいいか?」

「ありがとうございます。会議室と社長室を間違えて入ってしまったらこんな酷い目に」

 え? とういうことは、コイツが六人目か。

 そんな事を考えていたら、

「みんなこんなところに居たのか? 会議室で会議始めるぞ」

 社長もこっちへやってきたので、おれたちは社長室から引き上げて、会議室へと向かった。

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